満開の桜を見る人であふれかえる、高瀬川沿いから、新京極へ進むと、ここもまた海外の人も多く、にぎわっていました。京都で一番の繁華街の入口はいつも、ふんわり甘い匂いと「カッシャン、カッシャン」という楽し気な音が迎えてくれます。
「子どもの頃から大好きなお菓子」という人の多いお店です。観光で訪れた人はお菓子が作られる工程が見える様子に、思わず足を止めて見入っています。
創業70余年の「ロンドンヤ」の看板商品は「かすてら饅頭ロンドン焼」ただ一品という潔さです。今も「ハイカラ京都」味を守り続けています。
洗練された和菓子を感じる普段菓子
「かすてら饅頭ロンドン焼」は、戦後間もない京都で「ハイカラなお菓子を作りたい」と、その頃はまだ新しかったカステラ生地を使ったお菓子を考案したことに始まります。名前もハイカラにと「ロンドン」を付けたそうです。その響きやカタカナ文字の雰囲気がハイカラに感じられたのでしょうか。
ふんわりしたカステラ生地のお饅頭は、やっと迎えた戦後の暮らしに明るさを与えてくれたことと思います。「ハイカラなお菓子を作りたい」という創業者の思いには、多くの人にお菓子を食べる幸せを感じてほしいという願いも込められていたように感じます。
ロンドン焼は「あきないおいしさ」「また食べたいと思う味」という人が多い、気の置けないおやつのような身近なお菓子です。白こしあんのさらっとした甘さと生地との調和は、洗練された京都の和菓子がみなもとにあるように感じます。意識されたわけではないかもしれませんが、こういうところに京都の文化や技の積み重ね、歴史を思わせます。
機械がかすてら饅頭を作っていく様子は、一種のショーのような楽しさです。生地の入った丸い型が一周すると、くるっとひっくり返ります。オートメーションの機械なのに、祇園祭などで見る「からくり」のように見えて、ほほえましくなります。
しかし、すべて機械まかせにしているわけではなく、火加減や油の引き加減、開店速度など常に微調整が必要なのだそうです。そして最後に、丸い型からはみ出した生地を切り落として形を整えるのは手作業でないとできないと聞きました。やはり手の仕事が必要なのです。
見て感心するのはお菓子作りだけではありません。お菓子は一種類だけですが、10個箱入り、15個箱入り等々、また簡易な「へぎ包み」や、すぐ食べる人には小袋に入れるなど、そのつど対応されています。注文聞いて箱を折り、焼きあがりを入れた木箱から素早くへらで取り、きれいに箱に詰めて包装します。そして会計です。
それをたった一人でされています。その流れるような手際のよさは、これも職人技です。行列に並んだとしても、目の前で繰り広げられる見事な実技を見ているので退屈せず、いらいらすることもありません。
お店で聞こえるのは、注文の確認と、商品を渡す時の「お待たせしましまたありがとうございます」というやりとりだけです。余分なこと、ものがないすがすがしさもロンドンヤの好きなところです。
子どものころの思い出は今も健在
新京極にほど近い所に生まれ育った人が「子どもの頃、「しょっちゅうロンドンヤのガラスに顔をくっつけてカッシャン、カッシャンいうて回る機械を見てたわ。隣りの漢方薬屋さんに、ヘビの入った大きなガラス瓶があって、もう怖くて怖くて。いつもロンドンヤの前に行ってた」「おかあちゃんが買い物の帰りに買ってきてくれるとうれしかった」「いつもロンドン焼を持って来てくれるおばさんがいた」など、楽しい思い出と結びついた話をしてくれました。
ふと思いついて、生まれてこの方、ずっと町なか暮らしの知人にロンドン焼を渡したところ「うわー、ほんま久しぶり。なつかしい」と喜んでいました。新京極はお店の入れ替わりが激しい繁華街ですが、そのなかでも何十年も続くお店もしっかり残っています。
急激に変化する状況のなかで、商店街やお店を続けていくのは本当に大変なことと思います。そのような環境のもとでも、今求められていることは何かを考え、新しいことにも取り組んでいます。
ロンドンヤも抹茶生地のロンドン焼を月に一度、販売しています。500個限定、売り切れご免です。また、日持ち2週間の個包装もあり、遠方のお客様の求めに応えています。
本道をしっかり守り、その本道を歩み続けるために、新しいことも柔軟性を持って取り入れていく。まさに「ハイカラ京都」の精神と感じます。京都の奥深さ、底力です。そして、そのことは京都に暮らす喜びでもあります。それを噛みしめた、一日でした。
ロンドンヤ
京都市中京区新京極四条上がる仲之町565
営業時間 平日/10:00~19:30 土曜、日曜、祝日/10:00~20:00