暮らし、商う 職住一体の京町家

おだやかな秋の訪れとなり、京都の各地で収穫に感謝するお祭りが行われています。
菅原道真公を祀る北野天満宮の正面を通ることからその名が付いたとされる御前通(おんまえどおり)。先日行われた「ずいき祭」の御神輿の巡行路にもなっています。

時代の流れとともに、この通りの町並みも変わりましたが、生まれ育った家に住み継ぐことで「京町家のある景観」を部分的にもとどめている所もあります。

おだやかに軽やかに京町家と家業を語る


北野天満宮から御前通を南へ10分ほど歩くと、重厚な木造家屋がひときわ目を引きます。
二本の大きな樫の木と、七味の文字とひょうたんの意匠が染められた暖簾とが相まって、町家が並んでいた往時を忍ばせる一角となっています。
「七味六兵衛」は、その名の通り七味唐辛子の専門店です。築130年余りの京町家で、手作業による製造と小売りをされています。

現在は三代目の浅田昌裕さんが、普段に気軽に使える商品の開発など新しい展開も試みながら、お祖母さん、お母さんと伝授された七味唐辛子の香りと風味を守っています。

七味の7種の素材はと言うと「さて、何だっけ」となり、7種類すべてわかる人は少ないのではないでしょうか。地域や店によって多少違いがあるようですが、六兵衛では、鷹の爪、山椒、青のり、ごま、麻の実(おのみ)、しそ、陳皮の7種を使っています。素材の仕入先は当初から変わらず、素材を砕いたり、その日の気温や湿度により調合の割合を調整することもすべて手作業で行われています。
京都の七味は、東京などのピリッと最初に唐辛子の辛味がくるものと違い、唐辛子と山椒の配合に特色のあるやわらかい香りと風味です。最近は関東方面での催事販売も増え、そちらでもお客様から喜ばれているそうです。湯豆腐やきつねうどんに振りかけると、たちまち味が引き締まります。これからの季節には欠かせない常備品です。

住まいであり工房と店舗である京町家は「良好な景観を生み出す建造物」「歴史的な意匠を有し、地域の景観のシンボル的な役割を果たしている建造物」として、京都市から「景観重要建造物」「歴史的意匠建造物」の指定を受けています。
建物をはじめ、おくどさん、井戸、座敷庭を日常的に使いながら保存しています。1年を通じて水温が一定しているので夏は冷たく冬は温い井戸水や、お赤飯を炊いたりお湯を沸かす時に使う、おくどさんは、暮らしてこそわかる知恵や文化の継承です。
住み心地について浅田さんは「いや、冬はとにかく寒いですよ。風流とかそんなんと違いますよ。もし宿泊体験したら、一泊二日が限界でしょう」と笑いながら話されました。暖簾がかかった雰囲気のあるお店についても「入ってもいいのかどうかと思われる方が多いみたいですが、そんなこと全然なくて気軽に入って来てほしいのですけどね」と、至って気さくな方です。七味屋さんで六兵衛いう名はと、いわれを聞くと、親戚の方が「これがええんと違うか」と付けてくれたらしいと、これもまたおおらかな答えでした。

木造家屋は、きちんとした手入れが欠かせません。京町家を庭や井戸、おくどさんも含めて継承していくことは大変なことでしょうし、以前このさんぽ道でも取り上げたように(京町家の断熱リフォームの回)、ことに冬の寒さは並大抵ではありません。それも日常のこととしながら住み続けてもらうことで、世界の人々がイメージする「京都の景観」が保たれているのだということを強く感じました。

慎ましく並んだ京野菜の存在感

京野菜マルシェディスプレーコンテストで優秀賞受賞

七味六兵衛の少し北、御前通に面して、きれいに束ねられた野菜が並んでいます。他府県での京野菜の知名度は高く、時に仰々しさを感じることもありますが、佐伯さんの直売所の野菜には、土と太陽、そして畑の小さな生き物たちとも共生して育てられたおおらかさを感じます。自宅につくられた店先は「お隣のお家」的な親しみやすさで「今日のおかずに使いたい」という買い物にぴったりです。
露地もの、有機栽培にこだわって販売されている野菜は、佐伯さんの畑で作られたものです。すだれに手書きの「旬刊はたけ情報」がかかっています。ほうれん草の種まきなど畑仕事が待っているそうですが「一週間、お祭でほとんど仕事ができなかったので頑張ります」と、最後に小さく書いてあるのがご愛敬です。

玄関にはずいき神輿の千木につけられる藁と稲穂でつくられた梅花のお飾りが

お祭とは、もちろん、北野天満宮のずいき祭です。地元に暮らす人たちは、伝統行事の担い手でもあるのです。
はたけ情報によると、もうすぐ大根が収穫できそうとのこと。みずみずしい野菜が秋の深まりを伝え、季節を感じて暮らす豊かさを教えてくれます。

協同して、住まいと景観、文化の継承を


御前通を歩いてみて、町並みは変化していましたが、人がきちんと住み暮らす息吹を感じました。買い物帰りにご近所さん同士が立ち話をし、路地の奥からは、かすかに織機の音が聞こえてきます。
建都は、工務店さんや職人さんなど専門家のネットワークを生かして、地域のコミュニティーを形成し、住み慣れた家の親しみや京町家の良さを生かしながら、良好な生活の環境をつくるためにいっそう努力してまいります。
自然災害への対応も含め、よりみなさまの身近な住まいのために、お役に立ってまいりますので、どうぞ、どんなことでも建都にご相談ください

 

七味六兵衛
京都市上京区御前通下立売下ル下之町404
営業時間 10:00~18:00
定休日 土曜、日曜、祝日

 

京やさい 佐伯
京都市上京区仁和寺街道下がる
営業時間 9:00~18:00
定休日 日曜、祝日