啓蟄の暦どおりの、小さな虫たちも活発に動き始めたような春の日「メンマを食べて竹林再生を」という、楽しくおいしそうなテーマの会がありました。この京のさんぽ道でも、京筍やメンマ作り、伝統的構法の農小屋おひろめなどをご紹介しました石田ファームのメンマ作りのメンバーと、お手伝いしてくださったみなさんが集まりました。
背丈ほどに伸びた「幼竹」(ようちく)を伐り出して、湯がいて塩漬けにしたメンマの試食会です。ここでいうメンマは添加物ゼロ、たけのこと同じように使えます。家庭でも手軽に使える食材としての魅力を引き出し、広げることで、竹林の保全と荒れた竹林の再生につなげたいという願いがこめられています。当日はメンマを使った創作メニューが豪華なワンプレートとなって登場しました。
会場は向日市にある、国の登録有形文化財の「旧上田家住宅」です。おくどさんで炊いたご飯は、石田さんが手塩にかけた農薬、化学肥料不使、天日干しの、現在のコシヒカリやあきたこまちなどのご先祖の「旭米」です。今回の京のさんぽ道は、多くの豊かな出会いがあった、すばらしきかな春の一日のおすそ分けです。
ゆるやかに集まり、得がたい体験
この集まりは、石田ファームをホームとしてメンマ作りをする「メンマメンバーズ」の「竹乃舍」(たけのや)が企画しました。
昨年5月に仕込んだメンマの試食を中心に、かかわったみなさんへのお礼と、今後このメンマを広げていくためには、どんなことが考えられるか、何が必要かを出し合い、共有する場にしたいと企画されました。
「自宅でおしゃれな一皿が出せるパーティ料理」の教室を主宰しするLisas(リサス)さんが、他では出会えない「創造的メンマ料理」のワンプレートを完成させてくれました。Lisasさんは、パーティのようにおしゃれな一皿とともに「帰宅して15分で作れる、家族が喜ぶ普段のごはん」を大切にしています。当日も豪華版でありながら「今日からすぐに家で作れる」ヒントがたくさんあるメニューで構成されていました。すべてに「竹乃舍製メンマ」が使われていて、みんなうれしそうでした。
もうひとかた、この日の特別参加は、多くの人から「山野草の師匠」と頼りにされているバカボンさんご夫妻でした。朝、大原の里で摘んだ野草と、黒文字と猫柳の枝を抱えて来られました。うす暗い土間に春が舞い込んだようでした。
山野草のことはもちろん、おどろいたのは石田さんが育てたお米の稲わらを「ええ、出汁がでる」とメンマの味付けに使われたことです。その微妙な味わいが感じられるだろうかと少し心配でしたが、とても楽しみで、はじめての体験に期待がふくらみました。
炊きあがりの時間を計算して、おくどさんに火が入りました。薪をくべるのはコツがいりますが、そこは今まで大量の幼竹メンマを湯がいた経験がものを言い「火の番」は安心してお任せされています。
ゆるい集まりで、時間割もおおまかなのですが、みなさんそれぞれ自分ができることを見つけて手を動かしています。バカボンさんご夫妻に教えてもらいながら、つくしのはかまを取ったり、稲わら出汁で煮たメンマに黒文字や松の小枝を刺す作業はとても楽しそうでした。なんとなく「おとなの課外体験教室」のような雰囲気でした。
さいころ切りにしたメンマの姿はチーズのようです。松葉をあしらうと緑の色がすがすがしく、お祝いの席にもよさそうです。バカボンさんは、そのあしらいを「和の心。日本の料理人の心です」と語りました。味だけではない、食の楽しみと奥深さを教えてもらいました。
羽釜がシュルシュルと湯気が上がり始めました。みんが「せっかくだからおこげが食べたい」と希望するので、火の勢いを調節したり、火焚き番はなかなか大変です。
旧上田家住宅として公開されているこの建物の六代目当主、上田昌弘さんが見えて、おくどさんに火が入っているのを見てうれしそうに、火吹き竹を出して使い方を教えてくれました。「私はこの家でずっと暮らしていましたから、愛着があります。これからもこの建物を大切に残していきたいです」と話されました。家、建物はそこに住んだ人々の歴史も刻まれている家族の暮らしの証しなのだと、しみじみ思いました。
奥座敷での会食は、久しぶりに食卓を参加者みんなで囲んで話ができる、楽しいひと時となりました。ワンプレートの他にも、みなさん持ち寄りの、おいしいものが並びました。
たっぷりふきのとうが入ったふきのとう味噌、箸休めにぴったりの小かぶの酢の物等々。伊根町の鯖のへしこや「京太のはちみつ」メンバーの伊藤君が琵琶湖で獲ったわかさぎの自家製燻製には「これはビールか日本酒やなあ」の声に笑いと賛同の声が聞かれました。去年の春を思い出しながらメンマと自然の恵みの野草、八十八の手間ひまとお天道さまの力を借りて育てたお米を味わいました。本当の「御馳走」でした。
竹林とメンマを広く知ってもらうために
メンマで構成されたお昼ご飯をいただいた後、感想やこれからメンマを広めるうえでの、提案などの意見交換がありました。
竹林整備と抱き合わせて、福岡県糸島市から始まった「純国産メンマ」作りは今全国的に広がり、味付けされた「ご当地メンマ」を販売している例も多くあります。石田ファームのメンマは塩漬け後に、塩抜きをして食材として使ってもらう、または「おうちでメンマ」として幼竹のまま渡すこともしています。
「メンマという名前が、ラーメンに入っているあれ、という固定したイメージを持たれてしまう。こんなにいろいろな料理に使えるのだから名前を変えたら。いっそシンプルに竹にしては」「たけのこと同じように使える。穂先はきれいな形なので、それを生かして、形が大事なお節料理などに使いたいと思う。値段は少々高くても、そういう時期は必ず、国産の安心できる食材の需要はあると思う」「たけのこと比べて、幼竹メンマが優れている点ははっきり言って見当たらない。けれど、メンマを作ること、使うこと自体が放置竹林の解決、京都の美しい竹林を残すことにつながる。そこに共感してくれる人をどれだけ増やすか」「現在、出まわっているメンマやたけのこ水煮の90パーセントが輸入されています。そういう食料自給率の観点からも、安心な国産のメンマを普通の家庭で使ってもらえるようにしたい」「メンマ以外にも、竹の特性を生かした製品が誕生している。紙や繊維など、竹の可能性も合わせて知る機会を増やして、つながっていければ」などの意見が交わされました。
メンマは部位によって食感が違う点をうまく利用したり、和洋中どれにもなじむ使い勝手のよさがあるので食材として広げられる可能性、素材としての竹が優れていることに、みなさん手ごたえを感じられていました。
メンマと旭米の可能性を夢見て
メンマ試食会に参加されていたなかに、石田さんの田んぼのお田植や刈り入れに協力されている向日市の「一穂の会」(いっぽのかい)の紙芝居屋さん、「らっきょむ」さんが来られていました。週末の向日市で家族で楽しめるイベントがあり、そこで旭米のブースも出しますとお話されていたので行ってみました。
今人気の品種のお米のご先祖、旭米は、向日市がふるさとであり、戦後間もない頃までは、西日本で一番多く生産されていたそうです。そのような歴史と大切なお米なのに、現在は生産農家が本当に少なくなってしまいました。
「一穂」の会は、この旭米を広げる活動をしながら町おこしにつなげようと活動しています。一穂ははじめの「一歩」を踏み出そう、という意味も持っています。
らっきょむさんは向日市の小学校や学童保育所で、紙芝居を見せて旭米を知ってもらおうと一生懸命です。イベントでは古い脱穀機で稲を脱穀するコーナーを担当されていました。
Z世代のその先となる小学生たちですが、足踏み式の脱穀機での体験は大人気で順番待ちをしていました。自分のからだを使って、普段自分たちが食べているものがどのようにして届いているのかを知る機会となり、とてもよい企画だと思いました。現在はふっくら粘りがあって甘みを感じるお米が人気で主流です。そのようななかで、旭米は、はっきりした味や食感を感じにくいお米となっています。
言ってみれば、はっきり甘みを感じるお米に比べて、ちょっと素気ないような感じでしょうか。らっきょむさんは「いろいろ食べ比べる機会があれば」と考えています。確かに、味付けの濃い料理には相性がいいように思います。
竹林や京都の筍、旭米も、これからは、職業も世代も様々な人がつながる、多様な参加の仕方がますます大切になってくると感じました。もうすぐ、長岡京市、向日市など乙訓地域を中心に、京筍の出荷の忙しい季節を迎えます。竹林や田んぼがつくりだす美しい景観が守られ、農業がなりわいとして成り立つ世の中を願ってやみません。
そのためにも、京のさんぽ道も、小さな歩みでも、京都の日々の暮らしをしっかり受け止めていきたいと思いました。メンマと竹林に旭米、そして旧上田家住宅と、みんなの出会いに、夢をかなえるものと感じることができました。
石田ファーム 長岡京市井ノ内西ノ口19-1
旧上田家住宅 向日市鶏冠井町東井戸64-2
開館 9:30~16:30
休館日 月曜日、毎月1日