世界に広がれ 京太のはちみつ

コロナの影響でぽっかり時間が空いた日々に、京都大学農学部4年生の3人は「全国各地の農家さんのお手伝いをする旅」に出ました。
そこには自然にあらがわず、様々なことをみずからの力と技術でこなしていく本当に豊かな暮らしぶりと、そこに住む人々の「かっこいい」姿がありました。お米作り、梅の栽培、養蜂や炭焼き等々の達人や師匠となる人々とめぐり合い、二ホンミツバチの養蜂で「百姓として生きていく」夢の一歩を踏み出しました。
4月から始めて10月には、市場に出回ることがきわめて少ない「幻のはちみつ」の販売にまで漕ぎつけました。名付けて「京太のはちみつ」です。
農家さんの生き方に敬意と共感をもち可能性を信じて「百姓」への道を歩む、京太のはちみつ代表の大島武生さん、副代表の三宅新さんと伊藤佑真さんに二ホンミツバチのこと、これからの夢について語っていただきました。巣箱を囲んでの愉快なひと時でした。

養蜂を始めたわけと1パーセントの贅沢

ニホンミツバチ
市販されているはちみつの容器には「国産」「中国産」などと記載されていますが、そもそも国産とは何か、それは二ホンミツバチのはちみつではないのかなど、はじめて知ったことが多くありました。農林水産省の調査によると日本のはちみつ自給率はわずか6パーセント、そのなかで二ホンミツバチが占める割合はたったの1パーセントです。
昔から日本の山野にいた在来種の二ホンミツバチは、人間に育てられるようになっても野生の気質が抜けず、用意した巣箱も気に入らなければ引っ越してしまうという奔放さに付き合わなければなりません。セイヨウミツバチに比べ体は小さく、集める蜜の量も10分の1ほどに過ぎません。養蜂には「不向き」と言える二ホンミツバチですが、その苦労を帳消しにするほどのすばらしいはちみつをつくってくれるのです。

左から大島さん、三宅さん、伊藤さん

三人は口を揃えて、はじめて二ホンミツバチのはちみつを食べた時の味わいと香りは衝撃的だったと言います。「とにかく本当においしい」これが原点になりました。
調べていくうちに、巣箱は自分たちで作れそうなこと、とても希少なものであることがわかりました。受粉の役目をしてくれるミツバチは農家にとっても大切な存在です。将来農業をやってみようと思っている三人にとって仲間になります。かくして、貴重な1パーセントのはちみつを一人でも多くの人に知ってもらい届けるために京太のはちみつプロジェクトが始動し、養蜂を開始しました。

無添加・非加熱の百花蜜を届けるために

京太のはちみつ
二ホンミツバチが野山に咲く複数の花の蜜を集めてできたおいしい百花蜜も、加熱すると香りや味わいや多くの種類が含まれている栄養素が損なわれてしまいます。市販のはちみつのほとんどは熱処理が行われています。採蜜のタイミングや工程の効率をよくすることができるそうです。
京太のはちみつはミツバチや野山の自然のリズムに合わせて、ゆっくり時間をかけて熟成された蜜をいただき、熱処理も添加物も無しの、香りや花粉も味わいを深める「生」のままのはちみつです。
8月は5㎏、9月は2か所で合計10㎏採蜜し、10月に販売を開始しました。採取した巣から自然に垂れてくる蜜を集めた「垂れ蜜」と、垂れ蜜をとった後に巣に圧力をかけて絞った「圧搾蜜」の2種類です。趣味の養蜂ではなく、自分たちが生産したものを世の中に問い、売るというチャレンジです。
京太のはちみつ秋の垂れ密
大島さんは、高校の修学旅行で保津川下りの「船頭体験」をしたことから、すっかり京都に魅せられ、今は「若手船頭」とラフティングガイドとしてアルバイトをしています。この長年のご縁から、商品化された最初のはちみつを、保津川下りの待合所の売店に置いてもらい、130グラム3000円という高額にもかかわらず見事完売となりました。「なかなか手に入らないから」と2個、3個まとめて買ったお客さんもあったそうです。

巣箱の手入れをする三宅さん(左)と大島さん(右)

三宅さんは愛媛県で、お金のやりとりなしで「食事・宿泊場所」と、「力と知識・経験」を交換し、有機農業や環境に負荷をかけない暮らし方などについて知見を深め交流するWWOOF(ウーフ)に初参加し、その経験を現在の活動に生かしています。二人ともバトミントンが得意でその技を、二ホンミツバチを狙って襲来するスズメバチ撃退に発揮しています。

巣箱にはスズメバチ除けの赤いネットが付けられています。

10月からメンバー入りした伊藤さんは、ミツバチより後輩の一番の新参者の序列となっていますが、農業サークルに所属し、全国各地で農家の手伝いをしてきたバイク旅の愛好家です。ホームページやSNSでの発信を一手に引き受けて活躍しています。スズメバチの群れを追い払う、大島さんと三宅さんの目にもとまらぬ速さのラケット技法に感嘆していたら、そこで出くわしたセイヨウミツバチに刺されて大変な目に合ったそうですが、それにもひるまず巣箱の様子を見に来ています。
三人の二ホンミツバチとの付き合いは始まったばかり。まだまだ未知なるミツバチの世界の探求は続きます。

海外にも広げたい二ホンミツバチのはちみつ

京太のはちみつ 亀岡の巣箱
紅葉を楽しんだ野山にも枯れ色が目立つようになった12月はじめ、亀岡と京大付近に設置された巣箱の見学をさせてもらいました。
亀岡の巣箱は静かな山里にあります。ご自身も荒れた竹林整備の活動をされ、二ホンミツバチの養蜂を行っている、真福寺の満林晃典ご住職の厚意で、境内地に続く小高い場所に巣箱が置かれています。少し前まで一面にコスモスが咲いていた所もその先の竹林も、みんなで協力して整備されたそうで、手を入れた自然のよさがよみがっています。周囲の豊かな自然は百花蜜をつくる二ホンミツバチのすみかに最適です。

真福寺のご住職も一緒に様子を見に来られていました。

一週間様子を見に来てなかったそうですが安泰のようでした。これからの寒さ対策としてシートでおおうかどうか検討中ということです。スズメバチの侵入を防ぐ網も張ってありました。「養蜂は野菜や果物のように手をかけなくてもほったらかしておいてもいいから」という話もされていましたが、どうしてどうして、よい蜜をとれるようにするには考えること、やっておかないといけないことが多くあると感じました。
また、あろうことか大家さんであるご住職の巣箱より、店子の京太の巣箱のほうが蜜がたくさん取れたそうです。来年はどうか両方の巣箱にたくさんの蜜が集まりますようにと祈る気持ちです。
京太のはちみつ 京大の巣箱
もう一つの巣箱は京大の近くにあります。通りから構内のイチョウやクスノキの木立が見え「大学のまち」の景観を形づくっています。付近に大学付属の農場や植物園もあるため、まちなかであっても自然度が高く、京太の二ホンミツバチたちにとっても良い環境です。スズメバチとガに攻撃され、ひと群れは壊滅してしまったそうですが、残った巣箱の中は異常なしでした。
ニホンミツバチ
今、二ホンミツバチに限らずミツバチの減少が各地で報告されています。原因の一つとして、ネオニコチノイド系の農薬の影響が指摘されています。二ホンミツバチは農薬にとても弱いので、京太でも巣箱の設置には細心の注意を払っています。作物にとって欠くことのできないミツバチなど小さな生き物との共生の大切さが今また問い直されています。

京太のはちみつを海外へ広げようという構想が考えられています。自然がくれた贈り物のはちみつとプロジェクトの取り組みは、世界中で受け入れられるものだと感じました。
女王バチは2~3年、働きバチは2~3か月しか生きられないという、命をかけてただ花の蜜を集めるだけの一生に哀切さとともに、尊さも感じました。それはミツバチのことを愉快に生き生き話す三人の、農業や自然との向き合い方や「恵みをいただく」という謙虚な気持を感じたからかもしれません。
今までにつながりのある、お世話になったみなさんも、これからの展開を楽しみにしていると思います。はちみつの採取は春までお休みですが、ぜひホームページやSNSをチェックしていただいて現在進行中の京太のはちみつの活動に注目してください。そして少しでも自然の営みを感じられる暮らし方について、考えてみたいと思います。

 

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