時雨れて底冷えのする京都。火のぬくもりが恋しくなります。薪や炭、またペレットなど、木からできる燃料の良さを広げ、木と火のある暮らしを始めようと取り組んでいる会社があります。それぞれができる、小さなことから始め、その積み重ねが、私たちの暮らしを豊かにし、京都の森を再び元気にすることにつながると語ります。名付けて「薪炭革命(しんたんかくめい)」。
だれもが参加でき、出入り自由のほのぼのとした革命は、しかし進めるのは容易ではありません。これに果敢に取り組む、株式会社Hibana(ひばな)のアンテナショップであり活動拠点の「京都ペレット町家ヒノコ」で、代表の松田直子さんにお話を伺いました。
木と火のものが集まっている町家
バイオマス、ペレット。名前は良く聞くけど何だろう。バイオマスは、生物(bio)由来の物質(mas)のことを指し、木が由来のものを「森林(木質)バイオマスと言います。地球温暖化が世界中の大きな課題となっている今、注目を集め次世代の再生可能エネルギーとして期待が高まっています。間伐材や端材、おがくずなどの粉を固めて粒状にしたものが木製ペレットです。
松田さんは、熱帯林や日本の林業に関心を持ったことから「燃料としての活用」に至り、NPOで森林バイオマスの普及活動に取組んできました。より多くの人へ広げるためには、会社の設立が必要であると考え、2006年にバイオマス研究会で一緒だったメンバーと二人でHibanaをたちあげました。「いつまでも人の心を和ませ、ぱちぱちとバイオマスの火を灯していけたら」という気持と決意をこめて社名としたそうです。
Hibanaが運営する、アンテナショップであり、環境や森林にかかわる団体や関心のある人々のプラットフォーム「京都ペレット町家ヒノコ」は、前回ご紹介しました村上開新堂のすぐ近く、京都市役所北側にあります。
「京都ペレットあります」ののぼりと「森の燃料 道具 雑貨など」の木の看板の脇に、まな板や赤い色がかわいい火ばさみや灰すくい、木のクラフトが並んでいます。寺町通りのそぞろ歩きを楽しむ人たちも足を止め「この道具、懐かしい」「桧のまな板っていい匂い」などと話したり、商品を手に取ってみています。
建物は大正時代に建てられた京町家です。走り庭と呼ばれる台所のたたきも残り、知り合いの家へ来た気分の、気兼ねなく過ごせる空間になっています。店内は、木と火にかかわるもののワンダーランドです。ペレットストーブ、炭や火おこし、七輪、スプーンやお箸、食器、アクセサリー等々、何時間いても飽きることがないと感じる空間です。
愛嬌たっぷりの大きなピンクのぶたは、ペレットグリルです。イベントに貸し出され、実際にバーべキューに使われて、木の燃料の使用を呼び掛ける広報の一翼を担う人気者です。
クリスマスが近い季節柄、サンタやかんなくずで作られたリースや花が、冬の楽しさを盛り上げています。積み重ねて仲間や家族を増やしていけるネコのおもちゃには、一つ一つ木の名前が刻印されています。
商品展示もとてもセンスが良く、作家さんや森林の仕事をする人々とヒノコの、森や環境に対する深い思いと愛情が伝わってきます。無理せずに、木や火のある暮らしを始めるよいきっかけの場となっています。
ヒノコは森と人のプラットホーム
ヒノコの2階は、イベント、教室、展示会やミーティングなどに活用できるレンタル空間です。元写真館だったという建物の2階は、高い天井、漆喰の壁、大きくとった窓など、建物の魅力を感じます。ここでは、できるだけ京都産のエネルギーを活用できる設備や道具を備えています。炉を切り、床の間を設えた和室もあり、幅広い目的、企画での使用が可能です。
ペレットストーブ、ペレット七輪、炭火を使う昔ながらの火鉢や七輪、人数によって調整のきく可動式のメインテーブル、大きなドングリ型の火鉢、木地師のていねいなつくりの器などを使用することができます。壁には250種類の木からつくられた彫刻の作品「木の卵」が並んでいます。卵にはそれぞれの木の名前が添えられています。コシアブラ、カリン、枇杷、イチイガシ・・。制作者の思いから、すべてを、手に取りさわることができます。作品を手に取ること、七輪や火鉢に火を入れることは、火事になったら、やけどをしたら、作品を傷つけたらなどの心配が尽きません。しかしヒノコは「どんどん使ってください、さわってみましょう」を実践しています。太っ腹です。
壁の漆喰はスタッフが集まって塗ったそうです。大変でしたねと言うと「楽しかったですよ。この建物のこともいろいろ知ることができましたし」という答えが返ってきました。和室の片隅には、子どもの木のおもちゃも用意されています。空間まるごと木の心地良さと火の力を体験できます。
木のエネルギーの地産地消をめざして
障子、畳と長火鉢に鉄瓶。ペレットストーブのやわらかな暖かさが心地よい部屋で話を伺いました。バイオマス普及のため、もっと認知度を高めたい。そのためには、まちなかへ打って出ようと考え、この町家にめぐり合い移転して10年がたちました。
事業化して必死に活動を続けるなかで、松田さんが気にかかったのは、70%を森林が占める京都市の木の燃料が少ないことでした。他の地域から運んでいては輸送コストや環境面での負荷が大きくなってしまいます。そこで、京都府内で初のペレット製造会社「森の力京都」の設立にかかわり、実現させました。「京都ペレット」の誕生です。
ペレットストーブは、国産メーカーができたのが2000年で、一般に認知され始めてまだ十数年しかたっていません。海外では普及していて、韓国や中国でも増えているそうです。先進国のなかで唯一ペレットが広まってないのが日本という現状です。
松田さんはペレットストーブについて「都心部や住宅街でも比較的設置しやすく、日本の住宅事情に合っている」と語ります。取り付けはエアコンに近い簡単な工事ですみ、ペレットを燃やすだけなので、手軽に扱うことができます。「ちょうど家電と薪ストーブの中間、両方のいいとこどりした暖房機」なのだそうです。
ただ松田さんは、購入を検討する人に対して「ペレットストーブの良い点だけでなく、こういうこともありますよ」と伝えることが大切だと言います。灰の掃除や燃料を毎日補充しなければならないことなどです。その多少の「不便さ」とも付き合いながら、木や火を身近に取り入れる暮らしを始めてみませんか、という提案です。ヒノコの種々のリーフレットには、森や山々に木を植えた先人への思い、多くの人とかかわれる場の大切さが、真摯に熱く、そして深くわかりやすく書かれています。環境やペレットに関しての入門書としてもうってつけです。
ペレットストーブに使う木質ペレットは、地域の山の木でつくられています。
今は小さな単位であっても、木質ペレットを製造することでその仕事にかかわる雇用も生み出すことにもつながります。またペレットストーブはアフターメンテナンスが伴うので、その部分を担う仕事が生まれます。スト―ブ製造、燃料製造、輸送、販売、メンテナンスという地産地消ビジネスです。
Hibanaは、エネルギーと森林、木質ペレット、クラフト、そして私たちの暮らし、すべてが循環していること、少しの手間や煩わしさは、本当の豊かさをもたらすことに気づかせてくれる身近な存在です。
株式会社Hibana(京都ペレット町家ヒノコ)
京都市中京区寺町二条下ル榎木町98-7
営業時間 10:00~19:00
定休日 水曜日