30度を超える気温のなか、坂道を上っていくと、やがて両側の竹林が強い日差しをさえぎり、空気が浄化されるようなさわやかさを感じます。任意団体「籔の傍(やぶのそば)」が、2018年から整備を続けてきた荒れた竹林は今、美しくよみがえり、みんなが集まる活動の場として、すばらしく進化しています。
昨年のメンマ作りの取材「京都の竹林再生 幼竹がメンマに」からちょうど一年がたちました。活動に参加するみなさんの顔ぶれもさらに多彩になっています。しばらく間があいて参加すると、活発で自在な活動の成果におどろきます。
「籔の傍流」とも言える「ゆるやかに、なごやかに、楽しい活動の魅力は、また新たな段階へと歩みを進めています。その中で課題にも遭遇していますが、それもみんなで共有し前向きにとらえ、解決の道を考えています。おっとりしながら逞しく、息長い活動の様子をお届けします。一人でも多くの方に、竹の魅力とその未知なる可能性に関心を持っていただけますように。
竹の径に続け。間伐した竹を活用「籔の径」
「物集女(もずめ)竹林」と呼んでいる活動拠点は、その名の通り歴史街道である物集女街道から西へ入った山側にあります。竹林に沿った道はそのまま、両側に伝統的な竹垣が連なる1.8㎞に及ぶ「京都府景観資産」に指定されている「竹の径」に続きます。
そこで竹の径へ続けと、うっそうとした竹藪道に竹垣を作って整備する「籔の径」大計画にとりかかり、すでに第一期100メートルが完成しています。これは「京の竹林文化を守り育てる支援事業」として取り組まれました。
物集女竹林の間伐竹を利用した、波打つ曲線が美しい「深田垣」に、組んだ竹と男結びの縄が景色をつくる門扉は「寺戸垣」です。これを優れた技を持つ熟練の竹職人さんと一緒に製作したのですから本当に見事です。「好きこそものの上手なれ」という諺が浮かんできました。竹の径につながるまでにあと500メートル。これからの取り組みです。
ふと見ると、おもしろい椅子があちこちにあります。時計がはめ込んであるもの、片開きの物入れがある椅子、からくり付きというものまで遊び心満載です。こういう椅子に腰かけていたら、きっと愉快な気持ちになれると思います。物物集女竹林には、おもしろいことがあちこちにころがっていて、それもメンバーの手仕事です。
籔の傍が整備し、活動の場としている竹林は、下段のたけのこ畑、中段の活動竹林、奥は整備中の放置竹林となっていて、許可をいただいた休耕たけのこ畑も含めて2ヘクタールと、かなりの広さです。下のたけのこ畑と中段の活動竹林はきれいに整備されています。
梅雨の晴れ間、ハンモックでまどろむ姿に、こちらまで心地よく揺られている気分になりました。しばしのまどろみの後、二人は放置竹林の間伐に大活躍しました。一緒に作業をしていたご常連のご夫妻が「二人ががんばってくれたから、ものすごくはかどった。やっぱり若い人は違うなあ」と楽しそうに話してくれました。このような自然に生まれるチームワークに、籔の傍の活動が培ってきた精神があらわれています。
竹林にあらわれた、十八畳の大舞台
活動竹林の中央には、堂々とした野外舞台があります。昨年から京都建築専門学校の学生さんが、佐野校長先生の指導のもとで取り組んだ「十八畳の竹桟敷」です。「桟敷計画」を聞いた時は、ずいぶん大胆な計画に思えましたが、一生懸命作業をする学生さん達の仕事ぶりに、これからここでどんなことが始まっていくのだろうと、期待がふくらんでいきました。
使用している建築材は、間伐竹と京北町のひのきを使っています。竹と木材の使い道が開ける例として、多くの人に知ってもらえたらと思います。あの暑い夏の日、まだ土台を組んだ状態だった時から、今の姿を見て「唯一竹桟敷」という名を進呈したいと思う風格です。
佐野先生から今年の一年生が紹介され、早速、桟敷の畳の入れ替えや、ひのきの部分の調整をしていました。このように実際に伝統的な仕事を参加者が間近に見ることができる、とても良い機会です。一年生の岩垂さんに授業の様子を聞いた時「棟梁の仕事は本当にすごいんです。実際に見ないとわからないことがいっぱいで、僕らの何倍も早くてきれいな仕事をするんです」と、力を込めて話してくれました。職人の先達を敬う真っ直ぐな気持ちが伝わってきました。
竹桟敷は現在、合気道教室のみなさんが練習や発表会で使われています。小鳥の声、竹のそよぐ音、さわやかな風、木漏れ日。その自然と呼吸を一にした練習は、なんとすばらしいことでしょう。桟敷ですから、そこに座って景色を眺めたり、のんびり憩うこともどうぞ、です。十八畳の竹桟敷は、その活用法とも相まって、やはり他にはない「唯一」のものです。
これまでも冒険小屋や玉ねぎ茶室をはじめ、シーソーやブランコなどの遊具も建築専門学校チームが手がけました。この協力が、竹林で過ごす時を、いっそう豊かなものにし、冒険心を育ててくれます。今年は竹ツリーハウスやアスレチック的な遊具の計画を検討しています。佐野先生の「既成概念は捨てること。おとなの考えで作り過ぎた遊具には、子どもはおもしろみを感じない」というミーティングでのお話は、広い意味を持っていると感じました。
課題や修正点を受け止め、願いをかなえる
昨年の春からコロナ禍のもと、飲食をともなうプログラムや、集まりそのものも中止をせざるを得ないこともあり、台風や週末の雨にも泣かされることが度々ありましたが、大幅な計画の遅れもなく活動が続けられました。
たけのこ掘り、メンマ作り、竹バウムクーヘン、竹ぼうき作り、たけのこ畑のわら敷き、土入れなどの、遊びや実践の他にも、純国産メンマ作りの先進例や、竹の先駆的活用についてのセミナーとメンマ料理コンテスト、また今年度は竹の研究者を講師に「林野庁竹林整備プログラム」の連続講座などを行っています。
荒れた放置竹林の間伐や筍掘りも、順調に参加が多くなったことで、人的な力が充実し、どんどん伐って堀ってと、目覚ましい進捗状況になりました。それに対して、親竹にする竹をちゃんと残していかないと良い竹林、たけのこ畑にならないということや、作業の用語の間違いや、佐野先生からは「竹林景観としての活動の場であることが大切。開発しすぎてはだめです」という指摘もありました。「荒れた竹林をきれいにするために」という思いで一生懸命取り組んできたわけですから、この指摘はきついものであったと思いますが、「竹のことをもっと知ろう、もっと農家さんや竹のプロ、研究している先生に教えてもらいたい」と、とても前向きにとらえて共有されています。
この竹のようなしなやかさが、籔の傍の真骨頂だと思います。先日の集まりでは、子どもたちの遊びでの危険を回避しながら、このすばらしい環境の恩恵を受けるために必要なことが話し合われました。
また、竹林は境界線がはっきりせず、土が崩れたりすることで境界線も変わってしまったり、区分が非常に見分けにくい、ともすればよその竹林(たけのこ畑)へ入り込んでしまう可能性があるという問題も出てきました。それには、メンバーの方が丁寧に歩いて確認をして今の状態をSNSで報告するなど、しっかり地に足のついた地道な活動がされています。
建築専門学校、竹工芸・竹材会社、各分野の研究者、職人さんと、専門家のみなさんの献身的な協力を得られていることも支えになっています。乙訓地域の歴史や文化的景観、生業や暮らしの営みの視点を持ちながら、総合的な竹林管理を共有していこうとしています。
籔の傍の活動が種をまき、その芽が伸びていることは確かです。知ることを大切にした、のどかで明るく、たのしい活動が「持続可能」な地域、竹林と竹の活路を開いていくと思います。それは集まった人たちの、最後の晴れ晴れとした顔が物語っています。藪の傍や石田ファームの取材ではいつも「さわやかな風、小鳥の声・・・・」と書いてきましたが、そのたけのこ畑や乙訓一帯の景観が、誰によって、どのようにして保たれているのかということを今回、特に強く感じました。これからも、この籔の傍のかたわらにいて、活動を注目していきたいと思います。