梅から桜へ、京都の町なかに華やぐ春が訪れました。祇園、清水の最大観光地である東山区一帯は、大通りから脇へそれても、家族そろって楽しげに着物姿で観光する外国人観光客の姿が多く見られます。
観光と地元に住む人の暮らし。双方が成り立つことは欠かせない重要なことです。
京都市内は、ご当地の小学校の名前が地域の単位となり「○○学区」と呼ばれ、統合されても歴史のある学区名はそのままです。
六原学区は祇園、清水寺へも近く、六波羅蜜寺や六道珍皇寺おひざ元にあり、京都らしい町並みが残り、活気ある地域密着のスーパーマーケット、地元のみなさんの暮らしぶりや日常の何気ないやり取りを垣間見られる地域です。歩くと感じる六原の魅力をつづります。
冥途の入り口のご近所は頼れる商店街
東山五条の北西、松原通を進むとそこは「六道の辻」。あの世とこの世の境であり、閻魔様の裁きを受けて、六つの道のいずれかに生まれ変わるという言い伝えのある場所です。小野篁(おののたかむら)が冥途へ通ったとされる井戸のある六道珍皇寺は、毎年お盆には今も多くの人々が、お精霊さん迎えのお参りをされています。
古い伝統的な構造の商家をリノベーションした飲食店や、ゲストハウスなど、これまでとは町の様子も変わってはいますが「職住一体」のお店も健在です。それが、新規店が増えても落ち着いた、どこかあたたかさを感じる雰囲気をつくっているのだと思います。
「ハッピー六原」のアーチは地元のみなさんの暮らしを支えるスーパーマーケットへの入り口です。徒歩や自転車で次々とお客さんがやって来ます。「久しぶりやな。元気そうやん」「あんたも。今日は何買うたん?」というおなじみさん同士のやり取りも、地元感にあふれています。春休みだったこともあり、お子さん連れの家族も多く見かけました。「あ、○○ちゃんや」と友だちを見つけたり、レジのそばでお菓子がほしいと駄々をこねている小さな子もいます。ハッピー六原が地元に根付き、頼りにされていることが感じられます。
店内には「精肉、鮮魚・塩干、青果」の生鮮3部門をはじめ、各種食品、雑貨、総菜部門がそろい、さらに実用衣料と婦人洋品の専門店もあります。品揃えも充実していて高品質です。
たとえば、本日のおすすめコーナーには「宮崎県産 完全天日干し切り干し大根」が並び、練り製品は「合成保存料、合成着色料不使用」の表示があるなど、各部門の担当者の熱意と自信がうかがえます。
総菜は作りたて、揚げたてがその場で計量・パック詰めされ、従業員さんが立ち働く姿が見えて食品スーパーの臨場感があります。「こういうお店が近所にあったらうれしい」「毎日行きたい」と思う、地元に支持され、頼りにされる実力のあるすばらしいスーパーマーケットです。
目利きが選んだ「本当においしいもん」を対面販売
以前、唐辛子の葉と一緒に炊くちりめんじゃこのことを聞い時に、いろいろと教えてもらったことがきっかけで、時々ハッピー六原に行くようになりました。
教えてくれたのは「塩干部 リチャードおばた」さんです。世界的名優「リチャード・ギア」のリチャードを拝借されたそうです。
忙しいなかでも、今日のお買い得品や、この季節のおすすめの味のほか上手な焼き方や、工夫の一品の作り方まで、様々なことを教えてもらえます。家庭で今日からすぐ役に立つ知恵です。
海から遠い京都は、昔から塩干物の技術にすぐれ、塩をすることで生まれる旨みは京都の食材の特長と言えます。中央市場で25年働いた後にハッピー六原へ来て以来「魚とかかわって50年」の経験が、話のなかにも売り場にも余すところなく生かされています。
他の部門にも言えることですが、普通なかなか置いていない老舗の商品や珍味、地方の名産などもあるのが大きな特色です。いずれも各部門の担当者の目利きが選び抜き「これはきっと喜んでもらえる」と吟味し、納得したものだけを置いています。そのため料理人さんもよく利用するのだそうです。リチャードさんは自分で食べてみておいしいかどうか、そして実際に調理をしているから焼き方のコツや工夫ができると語ります。そして「対面販売やから、そういうこともお客さんに話せるしね」と続けました。
撮影を快く許可してくださり「ここを撮って」と所望されたのは「高評価のスーパーマーケットランキング第1位獲得」のポップでした。自分の担当部署だけではなく、ハッピー六原というお店がお客さんに支持されていることをとても大切に、また誇りに思っていることが伝わります。
「地域密着の店やからね」と笑顔で語る言葉が光ります。
暮らしを感じる町の魅力と底力
リチャードさんのもとに、おなじみのお客さんがやって来ていろいろ相談しています。ここで買う値打ちを知って、車で1時間くらいかけて通う人もめずらしくないそうです。
ハッピー六原がある通りには、パン屋さん、お花屋さん、洋品店が肩を並べています。
パン屋さんは、食パンからお菓子パン、サンドイッチ、クッキーやメレンゲなどの本格的な焼き菓子まで揃っています。聞くと息子さん二人がパン職人で人を入れて作っているということでした。「この場所では昭和48年からやってます。お客さんとはみんな顔なじみ」と元気に語るおかあさんです。「前にあべかわ餅をいただきました」と話すと「ああ、あべかわねえ。今日は忘れてきたわ」とほがらかに笑って答えてくれました。
六原学区でも、高齢化が進んでいますがそれに伴う「空き家」の課題には早くから取り組んできた実績があります。
買い物をしたり、歩いていても感じることができる町の実感は、このような地道な取り組みが基盤となり、住み、暮らす機能が存在しているからだと思います。
少子高齢化、空き家、そしてことに東山区で直面しているインバウンドの問題など、それは簡単には解決しない困難がつきまとうと思いますが「地域とここでの暮らしを大切に」を原点に共有して、住み続けられる六原学区であってほしいと思います。
帰り道、着物姿の外国人のカップルをスマートフォンを借りて撮影してあげると、ぱっと顔が輝き「Thank you so match」と返してくれました。観光と地元の暮らしが共存できることを願っています。
ハッピー六原
京都市東山区松原通大和大路東入2丁目轆轤町110
営業時間 9:00~20:00
定休日 1月1日~4日