美しく神秘な 石の世界を多くの人に

川原や行きかえりの道で見つけた石を持ち帰った思い出はありますか。身近にある石を面白いと思ったり、不思議に感じたり。そんな子どもの頃の心を持ち続け、とうとう個人で開設した「石の博物館」があります。日本各地で採集した岩石や鉱物は1万点に及び、日本に約1300種あると言われている鉱物のうち、800種の標本を所有する、すばらしい博物館です。自然が生み出す、不思議で美しい石と結晶の世界の話を、館長の高田雅介さんにお聞きしました。

創意と熱意あふれる展示と解説

高田クリスタルミュージアムの高田館長
マスクも結晶柄の高田館長

高田クリスタルミュージアム
高田館長は、石のほかにも昆虫や植物を採集して、いつも自然と親しむ子どもだったそうです。そして中学2年生の時に「益富地学会館」を創設し、地学研究に貢献した、益富寿之助氏を紹介され、益富さんも熱心にやって来る中学生をかわいがってくれました。毎週土曜日は益富先生の家へ行き、日曜日は鉱山へ採集に行くという日々を過ごしました。亀岡の大谷鉱山、岐阜県の伊吹山の鉱山、高校3年では、銅を採掘していた秋田県の尾去沢鉱山へ出かけるなど、フィールドワークを重ねました。親切に案内してもらい、採掘した場所から鉱石を持ち帰ることもできたそうです。当時(1968年頃)は、日本全国で1万、京都府内でも50近くの鉱山があり、鉱石がごろごろしたということです。この時期に各地の鉱山を巡り、採集した標本は今やとても貴重なものとなっています。
高田クリスタルミュージアム高田クリスタルミュージアム
また、このミュージアムで注目したいのは鉱物の結晶の模型です。高田館長は長らく、結晶の形態を研究し、結晶を立体の模型と、なかなか描ける人がいないという「結晶図」で、展示説明されていることです。たとえば水晶は美しい色や形状をしていますが、それはすべて理由があるいうこと。すべて化学式や数式など科学的な方法で表すことができるという説明に驚きました。立体模型はさながら、組木のクラフト作品のようであり、水晶図は、どうじたらこのように、立体を平面図に描き表せるのかと、おどろきの連続です。そして、その美しい結晶はすべて自然がつくり出しているということに、畏敬とも言える思いを抱きました。
高田クリスタルミュージアムの千葉石
高田館長が地道に続けてきた、この「結晶形態学」は、千葉県で採取された「千葉石」が八面体になっていることを突き止め、新種の鉱物であることを証明することに貢献しました。結晶の形はとても大事と語りました。しかし、今、結晶形態学は忘れ去られようとしていると聞き、それは大変な懸念だと思いました。地味な研究分野なのかもしれませんが、どうぞ引き継いでくれる人があらわれるよう願う気持になりました。

高田クリスタルミュージアム
自身が高校生の時訪れ撮影したものも含め、貴重な日本の鉱山コーナー

展示室には日本の鉱山の資料もたくさんあり、すでに閉山となってしまっている今、とても貴重な「産業遺産」と言えるのではないかと思いました。展示してある写真は高田館長自身が撮影したものが多くあり、岩石だけに興味や関心がいくのではなく、こうした日本の産業の歴史、そこに働く人の営みにも目を向けられていたことがすばらしいと感じました。しかも中学、高校の若い時分にです。それは石を狭い対象にとらえず、科学を志す人の精神性なのだと感じました。
日本は世界に誇る地下資源豊かな国であったことも知りました。質の良い金、銀、銅、鉄を産出し、明治時代に入って鉄道が敷かれた時もレールなど建設設備の資材は国産でまなかえたそうです。「日本は資源がない」のではなかったのです。明治時代に入り、産業構造が変わってからは、あっと言う間、80年でほとんど掘りつくしてしまったそうですが、わずかに残っているところも人件費等経費を考えると見合わないようです。明治、大正、昭和と日本の経済を発展させたのはこれらの地下資源のおかげです、と館長は力を込めました。とても深い学びがある展示室でした。

55年かけて収集、標本4000点

高田クリスタルミュージアム分館
佐賀県から見学のためにお越しになった方
ハート形の日本式双晶のコレクション
ハート形の日本式双晶のコレクション

展示室前の道路を渡った元のご自宅が「鉱物と結晶の博物館」です。一階には分類され、きちんと並んだ石に説明が書かれたカードが置かれています。結晶には手のひらのように、対の結晶となっているものがあり「右手結晶」「左手結晶」と言います。これはなんと、自然界には右と左がちょうど同じ数の割合で存在しているのだそうです。本当に不思議なことです。神秘的な自然の営みです。
また「双晶」という2個以上の結晶が規則的につながったものもありました。この分館には新鉱物である「千葉石」が展示されています。また「だんご石」「やきもち石」など、なんとも愛嬌ある名前をつけてもらった石もあります。
4000点に及ぶ標本が、それぞれの形態や状態により、それに見合った容器に入れて収納されています。展示品以外に、これだけ多くの標本を整理管理することは、並大抵のことではないと思いますが、これができなくては石の収集は無理なのだなと思った次第でした。

UVライトで蛍光する鉱物
UVライトで蛍光する鉱物

「ちょっとこっちへ来て」と角のコーナーへ招き入れられました。と、暗いなかに美しい色の灯りが浮かび上がりました。何の変哲もない石に見えた鉱石に紫外線を当てるとこのように変化したのです。この原理は蛍光灯やブラウン管に応用されていると聞き、岩石や鉱石は様々なところで利用されていることを知りました。説明をしながら高田館長は「こんなにきれいなのはなかなかありません。これを見つけた時はうれしかったなあ」とその時のことを思い浮かべ、相好を崩しているようすをとても笑ましく感じました。分館は石の秘密の隠れ家的な感じもして、石好きな人は興奮するだろうと思いました。
この日は、九州からこのミュージアムをめざして来たという方と一緒になり、知識も豊富で石が取り持ってくれた縁でよい同道をさせていただきました。

クリスタルにあふれている

高田クリスタルミュージアムのカフェ高田クリスタルミュージアムのカフェ
敷地内には、奥様が担当するゆったり過ごせるカフェとミュージアムショップがあります。何万年、何百万年という時を重ねて私たちの前にいる石と同じ呼吸を感じる空間です。お手製のカレーやシチュー、ケーキを、ていねいにいれたコーヒーや紅茶と味わうことがきます。そしてここにも、石をいながらにして眺めることができ、仲間の作品も置いたグッズのスペースも楽しめます。チョーカーやTシャツ、エコバッグも結晶図がデザインされています。Tシャツの結晶イラストは館長自ら描いたものです。ステンドグラスも結晶です。これはご親戚の母娘さんの合作とお聞きしました。あいにくの雨の日でしたが、淡い光線を受けて、その美しさを見せてくれていました。
高田クリスタルミュージアムのカフェ
小学2年生くらいの子も常連さんと聞きました。「明日その子と、西山へ水晶を取りに行く約束しているんやけど、雨かなあ」というつぶやきが聞こえました。高田館長が生まれ育った大原野のクリスタルミュージアムがこれからも多くの人に大地の自然の大切さ、美しさを知らせる場として親しまれるよう、またコロナで中断されている講座も再開されることを願っています。

 

高田クリスタルミュージアム

京都市西京区大原野灰方町172-1
開館時間 10:00~16:00
開館日 金曜、土曜、日曜日
(分館「鉱物と結晶の博物館」は日曜のみ開館。事前予約が必要です)