紙の手ざわり 貼箱作り体験

季節やお祝い事など、暮らしの場面に合わせた進物は、それぞれ用途に合わせた形、素材の「化粧箱」におさめて先方へ贈られます。美しい意匠の紙箱は、どこの家でも当然のように再利用されていました。子どもの頃、宝物をきれいな箱に入れていた思い出のある人も多いのではないでしょうか。
前回の「高田クリスタルミュージアム」に続く「学びの秋」企画は「貼箱作り体験」です。紙箱を通して、近代京都のものづくりの一端を知ることができる「京都かみはこ博物館 函咲堂」を2回にわたってご紹介します。

紙の手ざわりと、形になる達成感

京都かみはこ博物館 函咲堂の館長
案内された体験の会場には、各工程の機械がずらりと並び、元気に稼働していた様子を彷彿とさせます。指導をしてくださるのは、かみはこ博物館館長、山田芳弘さんとご家族のみなさんです。参加者それぞれの前に、展開図の形に切り抜いた貼箱の本体が、大小2種類置かれています。何種類か用意されたなかから箱に貼る紙を選びます。モダンな雰囲気を選ぶか、でも華やかな色目もいいと迷った末、やっと決めました。

京都かみはこ博物館 函咲堂の紙
会場には多くの紙が展示されています

次は、あらかじめ折り線が深く入れてある厚紙の四辺を折り上げます。四隅をテープで止めて、箱の身とふたができます。
今度は、選んだ紙に刷毛で糊を付けていくのですが、刷毛の扱いもぎこちなく、糊の付き方にむらができてしまいそうです。また、いざ貼ろうとすると、糊が乾いてしまっている部分があり、糊を付け直します。その日の気温などによって糊の乾き具合が違うそうで、こういった微妙なことがわかるのも体験だからこそです。
京都かみはこ博物館 函咲堂の張箱体験
ふたの表面に紙を貼る時、やさしく手でなでようにして、しわやでこぼこができないように気をつけます。無心に作業に没頭する工作の時間のようです。最初は失敗しないようにと、やや緊張気味でしたが、函咲堂のみなさんの、優しく細やかな教え方のおかげで、母娘で参加された方と一緒に、とても和やかな、いい雰囲気で時間が過ぎていきました。
京都かみはこ博物館 函咲堂の紙箱
そしてそれぞれの「私の箱」の完成です。形になったうれしさに、自然と顔がゆるんできます。折り線がしっかり付けてある型取りされた厚紙と、同じ大きさに裁断された紙、このキットがあれば、手先が器用ではないと思っている人も、また、経験や年齢も関係なく貼箱体験ができます。手作業の楽しさを久しぶりに実感しました。

舶来の機械が並ぶ工場のような臨場感

京都かみはこ博物館 函咲堂の山田館長
貼箱が完成した後に、函咲堂に保存・展示されている多くの種類の機械や道具、貴重な資料と、紙箱の歩みについて山田館長さんの解説で見学しました。
ひと口に紙箱と言っても、本体とふたに分かれている貼箱、型で抜いて折る、組み立てるものなど様々なものがあります。また、それぞれの箱の工程に専門の機械があることを知りました。裁断の機械も複数あり、体験で作った箱の厚紙の折り線をつける機械、ホッチキスのように金具を止める機械等々、本当に多くあります。
京都かみはこ博物館 函咲堂の機械
機械は、それぞれの工程を順番に理解できるように配置も工夫されています。紙箱の歴史や、どのようにして作られているのか知ってほしい、そして箱に入れて贈るという文化も伝えていきたいという思いが伝わってきました。
展示されている機械や資料は、明治時代に創業した京都の紙箱業界の雄であった「泰山堂」が所有していたものです。縁あって函咲堂が受け継ぎ、展示しています。展示室は2階にあり、1階に鉄骨を入れて補強し、重機で搬入したそうです。紙箱製造機がこれだけ一堂に展示されている所は他に例を見ないのではないでしょうか。

貴重な資料と歴史を受け継ぐ

京都かみはこ博物館 函咲堂の展示
展示品のなかには箱作りが手作業だった時代のものもあります。糊を入れていた大きな木桶、刷毛、紙を切る包丁など、これらの道具で作るのはさぞ手間ひまがかかったことだろうと想像できます。
しかも今よりもっと、日常的に行き交うものに箱が使われていたと思います。風呂敷を入れる浅い箱、反物用の深く長い箱、うちわや扇子用の箱。商いや暮らしのなかで受け継がれてきた習わしと結びついて、箱の需要も様々あったと思います。そしてそれぞれの時代の箱に携る人々が、時代の大きな波も含め、困難もあるなか、研鑽と研究、工夫を重ねて発展の歴史を刻んできました。
京都かみはこ博物館 函咲堂
おかあさんと小学生の娘さんも興味深そうに熱心に見学されていました。キットを使ってだれでも気軽に貼箱が作れるというだけに終わらず、ものづくりそのものについて知ることは大切なことだと感じました。多くの機械や道具が並ぶ様子は、箱作りの現場にいる臨場感があり、こうした環境で体験できることは貴重です。自分で作った箱が、いっそう思い入れのあるものになりました。
京都かみはこ博物館 函咲堂の紙
紙箱は上に貼る紙や印刷技術も不可決です。紙の材質、デザイン、印刷技術の向上といったことと深くかかわっています。その点にも大いに興味をそそられました。次回は、函咲堂を開設した思いや、これまで取り組んでこられたことなど、山田館長さんに伺います。

 

京都かみはこ博物館 函咲堂(はこさくどう)
京都市下京区西七条比輪田町1-3