前号でお届けしました、京都建築専門学校の学園祭伝統の企画「堀川茶室」がめでたく完成し、卒業生とその家族、ご近所の方、通りすがりの人など、多くの人が晴れた空の下、伝統構法で建てられたお茶室を興味深く見学し、薄茶をいただいていました。
ヘルメットや曲尺、金鎚いろいろな工具が置かれた場所もきれいに片付けられ、学生さんたちが最後の追い込みにがんばった、その火照りをほのかに感じる「フルモデルチェンジ堀川茶室」で至福の一服をいただきました。京都の伝統文化や建築の技と精神を受け継ぐ若い世代の可能性を感じた取材でした。
本当に「どなたでもどうぞ」の開放的茶室
お披露目前夜、堀川茶室は、足場が取り払われ、風格を感じる堂々とした姿を見せていました。翌朝からお客様を迎えるために気息を整えているようにも思え、しばらく夜の風情を楽しみました。
伺ったのは二日目の午後。茶室とそのまわりで、多くの人が思い思いに楽しそうに過ごしています。秋の透明な光を受けてきらきら光るせせらぎに建つ堀川茶室は本当にすばらしく「三日間限定」がなんとも惜しく思えます。佐野校長先生にそう話すと「式年遷宮と同じようなものだから」と笑って返されました。三日間で解体し、使える部分は再利用していく。なるほど、堀川茶室は基本的には伊勢神宮の式年遷宮と同じと、うなずきました。
OBとその家族、先輩、当初から指導にあたっておられる佐野校長先生ご夫妻も見えていました。世代は違っても同窓のよしみで、親しく会話がされている様子も、この茶室と一体の雰囲気を和やかで開放的なものにしています。
お抹茶をいただいた小さな子が、口のまわりを緑色にしてにこにこ遊びまわっているのも微笑ましい光景です。
「フルモデルチェンジ」をうたった二間続きのお茶室に、それぞれ釜がかけられ「お茶部」メンバーは大忙しです。今年は男子の着物率も高く、可憐な着物女子と好一対の、きりっとした姿でした。若い人の着物姿が華を添え、あらためて「着物はいいな」と思いました。
学校の名前が染め抜かれたはっぴ姿も、毎年楽しみにしています。日本の衣装は後ろ姿もきまっています。着物とお茶室、堀川の流れ、秋の日差し。これ以上ないほどの、すばらしい取り合わせです。にじり口にスニーカーがあるのも堀川茶室ならではではないでしょうか。
「小さなお客さま」も入れ代わり立ち代わり席入りしていました。こんな頃から正統な伝統構法によるお茶室へ座ることができるのは、とても素晴らしい経験になると思います。
畳の感触、うす暗い内部、お湯のたぎる音、土壁、藁の匂い。お点前をはじめ、それぞれの所作や立ち居振る舞いも、座った目線になると見え方が違ってきます。きっとこれまでにない新鮮な感覚を持ってくれたのではないでしょうか。来年も来てほしいと思いました。
「今年はどんなんができるんや」と声をかけてくれる人もいました。地元の方がそういうふうに見てくれていると知って、とてもうれしかったです。子どもたちにもっとゆっくり体験してもらえるようにしたいですね」と、お茶部の部長さんが話してくれました。そして「堀川通をこんなに車が通っているのに、茶室に座ると川の水の流れる音が聞こえるんです」と続けて話されたのが印象的でした。
暮れなずむ頃、佐野校長先生ご夫妻と卒業生の方と一緒に席入りさせていただきました。
笹を漉きこんだ和紙の行灯を見て「これは私が作りました。まだ使われている」とうれしそうに話してくれました。
去年は仕事で来られなくて今年やっと来れたそうです。このように卒業生が忙しい合間を縫って足を運んでくれるところにも「京都建築専門学校」の学びをうかがい知ることができます。
お花は、竹林での活動に、みんなが楽しみにしている「よしこさんカレー」を差し入れしてくださる佐野校長先生の奥様が用意されました。ほととぎすと秋明菊にセイタカアワダチソウの取り合わせです。とても自由な茶花の発想に感心しました。
堀川茶室は、教職員のみなさん、先輩、家族、地域の方々と多くの人に支えられ、学生もそれに応えてがんばり、毎年恒例の風景ができあがっていくことを実感しました。
出会った「師と仲間」はかけがえのない財産
京都建築専門学校では、先生や学生のみならず、伝統建築に携わる様々な分野の職人さんに直接学ぶことができます。「卒業した後、地元へ帰る学生もいます。それぞれのふるさとでも学校の二年間が生きるように願っています。京都の伝統文化にじかに触れた経験はきっと役に立つと思います」という言葉を聞きました。
その現場での体験は堀川茶室のみならず、向日市の「寺戸大塚古墳の竹林小屋」宇治市の通称歴史公園に建てられた、歴史的なお茶栽培・製茶の伝統に基づく「覆い小屋(おいごや)」、清水焼の聖地「五条坂の町家」の改修「仁王門の家」等々、いくつもあります。
これらの建物が、京都の産業や暮らしの文化を伝える目に見えるかたちとして、これから先も見守られていくよう願っています。
そして、学校で出会った先生や職人さん、仲間と培った経験が、卒業後もきっと支えとなると感じました。
京都建築専門学校
京都市上京区下立売通堀川東入ル東橋詰町174