暮らしの営みや 人とつながる建築の喜び

手入れの行き届いた竹林に、土壁塗りの趣きのある建物が見えます。前回の「京都の筍はふかふかの畑で育つ」で、お話を伺った石田ファームの石田昌司さんが依頼し、京都建築専門学校のみなさんが取り組んでいる「山の竹林の道具小屋」です。
これがなぜ小屋なのと感じる、伝統構法の建屋です。去年の冬からあたためていた構想は、完成に近づいています。五月の風薫る良い日和のなか、壁塗りの作業が進められていました。

伝統構法の得難い実体験


伝統構法の建屋は、石田さんが管理する「山の竹林」の中腹にあります。今の季節は、来年筍を採る親竹にする竹に印を付けて残し、他の丈の伸びた幼竹は固くならないうちにどんどん切らなくてはならないので、出荷が終わっても筍農家は息つく暇もありません。石田さんは、この仕事をしながら、道具小屋の進捗を見守り、時々自らも作業をしています。

建築を担当されているのは、京都建築専門学校の校長、佐野春仁先生と教え子の学生のみなさんです。民家や古材文化について造詣の深い石田さんは、京町家に関する集まりで佐野先生と出会い、そこから「建築と竹」の協同の取り組みが始まったそうです。この道具小屋は、今年卒業したみなさんが仮組みや足場つくりから、寒い冬や雨の中でも作業を続け、卒業ぎりぎりまで取り組んだ、思いが込められた建物です。その後を後輩が受け継いで続けられています。とかくスピード優先、早く結果を求める今、こうして一つ一つの工程をきちんと積み上げていくことはとても大切なことだと感じます。

竹の合間から中のお茶会の様子がうかがえる堀川茶寮

建築専門学校では毎年学園祭に、学校近くの堀川の河川敷に「堀川茶室」を建て、数寄屋建築のお茶室の雰囲気を市民のみなさんに気軽に楽しんでもらう「お茶会」を開いています。先生の指導を受けながら、学生のプロジェクトがすべてを取り組んでいます。屋根に葺く稲わらは、京北町で自分たちではさにかけて乾燥させたものを、学校OBの専門の職人に習って葺き、荒壁の下地には石田さんの真竹が使われています。
にじり口や茶道口もちゃんとあるこの堀川茶室は、2009年から出展している学園祭恒例の企画で、秋の堀川の風物詩と言っても過言ではありません。お茶部、お花部による道具立てやお軸、お花などもすばらしく、若々しいお点前も雰囲気を和ませてくれます。

また、向日市の放置竹林対策に取り組むNPO法人の活動に協力して、竹林の中に「竹のお茶室」もつくりました。その形状から「玉ねぎ茶室」と名付けられ、お披露目茶席にはお子さん連れでの参加もあり、みなさん自然を満喫しながらの一服という、とても新鮮な体験を楽しんでいました。
学生主催のお茶席に寄せていただいていつも感じるのは、伝統の技術とともに、その背景や骨子となる日本の文化や自然への、しっかりした視点が養われていることです。そこから建築に対する深い思いが醸成されていくのだと思います。お茶室は、本当に豊かな学校生活を送っているからこそ可能な、かかわったみんなにとって、忘れることのない共同作品なのだと感じました。

人とつながり新たな価値を生み出す

青竹で作られた雨樋が付いています

さて、卒業生から引き継いだ道具小屋です。伺った当日は佐野先生と2年生の松井風太さんが、壁塗りに奮闘中でした。松井さんは、社会人として仕事に就いて後、建築専門学校に入学しました。「これまでの仕事とはまったく違う建築の分野を、年下の同級生と一緒に勉強するのは楽しいですよ。それと職人さんの仕事は本当にすごいですね」と、今の学校生活の充実ぶりが言葉の端々にあらわれています。

京都建築専門学校の校長、佐野春仁先生と教え子の松井さん

道具小屋の壁は、割った真竹を縦横に縄で編んだ下地に荒壁を塗り、その上に壁土を塗り重ねています。実際は難しいでしょうが、見ているぶんには同じ調子でスムーズに塗っているように思えます。しかし、壁一面を仕上げるには、体幹をしっかりさせて壁に向かうこと、また鏝の使い方などいくつものポイントがあるようでした。時々、佐野先生が進み具合を見てアドバイスされ、松井さんが真剣な面持ちで聞いています。集中しながらも伸び伸び作業する様子が伝わってきました。

途中で土練りの作業がありました。去年の夏に稲わらをまぜ込み発酵させた土に、もみ殻もまぜ、さらに古い土を入れて発酵を促したそうです。土はここの山の土です。佐野先生は運搬車を動かすのもお手のもの、追加する土を運んで来ました。筍栽培に使われる赤土粘土は壁土にも具合が良く、竹も自前の真竹という身近に調達できています。
佐野先生は「壁塗りは無心になるからいい。すっきり塗るのは難しいけれど、素人の農家さんが荒土で塗った風情かな」と楽しそうに話され、その気持ちが鏝の動きに表れているようでした。

柱と桁などの仕口を固定するため木材、込栓

この道具小屋は、見どころが多くあります。木材は、杉丸太の皮剥きをして、「はつり」という日本独自の方法で、ちょうなという斧のような道具で表面を削り、今回は最後に電気かんなをかけて仕上げています。防腐塗料は石田さん推薦の塗料で、なかなか優れものとのことでした。
柱や梁などは、込栓(こみせん)や鼻栓、くさびなど木の部材で止めています。またこのような技術以外にも、縦に通した竹の雨樋からホースを通して、雨水を貯水タンクに貯めるなど循環を考えた工夫を取り入れています。

佐野先生は「かつての家づくりのどの場面においても、関わっている人たちの間に共感が息づいています。様々な多くの知識とともに、根底にある建築する喜びを知ってもらいたい」と、学生へのメッセージを送っています。
石田さんと佐野先生と学生たち、かかわった多くの人が喜びをともにする「道具小屋」の完成が待たれます。壁や柱も年月を経て、いい味わいになっていきます。それも大きな楽しみです。建築専門学校で学んだ日々が、学生のみなさんにとってこれからの礎になり、それぞれのところで生かされるよう願っています。
建都も優れた伝統技術を継承する工務店さんや多くの職人さんとともに、今後いっそう京都の建築とまちづくりに寄与してまいります。

 

京都建築専門学校
京都市上京区下立売通堀川東入ル東橋詰町
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