京都西山、竹の春 竹林の農小屋完成

京のさんぽ道「暮らしの営みや人とつながる建築の喜び」でご紹介しました山の竹林の農小屋が、竹林を管理する石田昌司さんの見守りと理解、京都建築専門学校の佐野春仁校長先生と学生さんたちの、献身的な作業のすえに完成しました。構想から2年近く、寒風に吹かれ、雨に打たれ、蚊の襲撃に耐え、ついに迎えたこの日をお祝いする集まりは、限られた人数となりましたが、とても心あたたまるものでした。

秋のしつらいのお披露目茶席


板戸が閉められた小屋の中は午後の光が弱まり、しんとして「陰翳礼讃」の世界に招かれたようです。前日まで作業が続けられていたとは思えない静けさです。藁がすき込まれた壁と掛花入れの秋明菊(しゅうめいぎく)が、一層ひなびた秋の風情を漂わせています。もう一つの白釉の花入れには秋明菊と秋海棠(しゅうかいどう)が入っていました。このお茶花は佐野先生の心遣いです。

密を避けるために一席を少人数にしてあり、ゆっくりと一服をいただくことができました。一緒の席になった初めて会う方とも、自然に会話ができる、こういった間合いを心地よく感じます。久しぶりにお茶の席に座ってみて、和やかさと一種の引き締まった空気が共存する空間は、やはり良いものでした。
この時のお点前は、建築専門学校2年生の浅原海斗さん、前回の京のさんぽ道に、土練りや壁塗りに奮闘する姿を取材させていただいた松井風太さんの同級生です。浅原さんのお家は左官業を営んでいると聞き、職人さんの技術を子どもの頃から日情的に目にして、体のなかに刻み込まれているのだろうなと思いました。若い世代は頼もしい、という感を強く持ちました。

出窓には、柿の照り葉の上に、いが栗が乗せられていました。これは石田さんの畑の栗で、自らしつらえました。お菓子も秋の装いの栗きんとんです。参加者の方の、お手製と聞きました。しつらいからお菓子まで、すべてに心がこもっていました。準備はさぞ大変だったと思いますが、大変なだけでなく、楽しみながら準備してくださった様子がうかがえた、心地の良い披露目のお茶会でした。こういうお茶会なら「堅苦しいからいや」と敬遠している人も「お茶って、案外いいね」と感じるのではないかと思います。
季節は「竹の春」。筍に栄養を使い、葉を落とす時期を「竹の秋」、養分を蓄えて青々と葉を繁らせた今を、竹の春と呼びます。いずれも季語となっています。
そんな俳句の世界にも通じた、豊かな季節感を感じられたのは「農小屋のお茶席」だからこそと感じました。

五感の楽しみを贈ってくれた友情の輪


竹の皮のお弁当箱に、きれいに詰められた秋の彩りのご馳走は、お茶のお菓子を担当してくださった管理栄養士さんの薬膳のお弁当です。美味しくて体に良いものが何種類も入っています。いちじくは石田さんの畑のものでした。
タイの弦楽器サロータイの笛「クルイ」
そして、お茶をいただいた小屋の板の間が、小さなコンサートのステージになりました。民族音楽の研究のため、タイから日本に来られている演奏家の方の音楽の贈り物です。
ココナツの胴に板を張った「サロー」という弦楽器と「クルイ」という笛を演奏していただきました。サローは見た目には簡素ですが、とても深く、様々な表情のある音色でした。クルイもやわらかく素朴で郷愁を感じる音を奏でていました。演奏者のお人柄もあるのか、やさしさが伝わってきて、涙ぐみそうになりました。
竹の葉ずれや風の音も、演奏に合わせているかのようでした。国や言葉、それぞれの立場等々を超えて、心を通わせ、思いを共有できるすばらしさ、尊さが胸に刻まれたひと時でした。

農小屋の未来図をみんなで描く


当日は、お隣の大山崎町のふるさとガイドや、えごま油を復活させる会で活躍されている方や、長年竹に関する活動に参加されているみなさん、竹林の前の持ち主の方、竹林の向い側にお住まいの方も参加され、お祝いして頂きました。農小屋が、小さくても地域につながるきっかけをつくり、その輪が広がっていくように願っています。

農小屋には、筍掘りの道具などを仕舞います。また、竹林の作業は筍掘り以外にも幼竹伐りや、秋に藁敷き、冬に土入れなど、大勢でする仕事があり、そういう時にも活躍します。できる作業に参加して、多くの人がたけのこ栽培や竹林をきれいに整備し、保つことの大変さを知ることにつながればと思います。
また「伝統構法」で建てられたこの農小屋は、その見どころや日本の建築の初歩から教えてもらうことがたくさんあります。そして、青竹の雨樋や、それを受ける800kgの雨水タンクを埋めこむための地盤強化、足場がそのまま見えないように間伐した青竹を置くなど、自然に沿った構法や工夫にも着目です。石田さんと佐野校長先生、学生さんのチーム力があったからこそ、この日を迎えられたと感じます。

山の竹林の農小屋は、今年の卒業生と2年生のみなさんの、2年間の学校での学びの証です。松井さんと浅原さんが「壁の色や窓枠のべんがら色の赤が、どんな風に変化していくのか見たい。経年変化が楽しみ」と話していました。竹林の季節を感じながら、新しい集いの場となりますように、期待をこめてこれからもみなさんの取り組みを、しっかりお伝えしてまいります。

 

京都建築専門学校