だれもが笑顔になる 京都の猫本サロン

あどけない子猫、目やにのついたとぼけた表情の猫、不敵な面構えのボス風等々、たくさんの猫が迎えてくれます。思わず顔がゆるみます。棚一面に収められた2000冊以上もの本の中にいる猫たちです。ここは猫と人、人と人のよい関係を紡ぐ猫本専門の古本屋さんです。猫と本と旅をこよなく愛すオーナーと、店長を務める妹さんの櫻井映さんの、猫への愛情に満ちた店内には、今日もゆるく和やかな空気が流れています。地元の人が普段使いする商店街の猫本サロンを、久しぶりに訪ねました。

自由で気楽なサロンは開店3周年

猫本サロン サクラヤ
この京のさんぽ道でも「毎日通いたい京都三条会商店街」でご紹介した「猫本サロン 京都三条サクラヤ」は、文芸書、世界の名作、写真集、文庫、雑誌など、2年前よりさらに増殖し、よくも集めたり、天井近くまでぎっしり埋まっています。猫の本て、こんなにあるのかと思います。「どうぞ、手に取って見くださいね」と声をかけてもらい、夏目漱石、内田百閒、ヘミングウエイという文豪から岩合光昭など、洋の東西を問わず猫と深い結びつきのある作家や写真家、イラストレーターの本や作品集をゆっくり見ることができます。ミュージシャンにも猫好きが多いことを知り、ほのぼのとした気持ちになりました。なかには、現在、なかなか手に入らないものもあり、インターネットでの問い合わせや注文にも対応しています。
陶器の猫たち

立命館大学猫の会RitsCatのグッズ
立命館大学猫の会RitsCatのグッズ

本と同じように旅が好きなオーナーが、本に出てくる国や場所を訪ねた時に求めた、陶器の猫たちも、トルコ、ロシア、ウズベキスタンなど国際色豊かに並んでいます。作家さん持ち込みのポストカードや可愛い猫柄のマスクも あります。また、大学生がキャンパスで世話をしている猫の保護資金を得るための、猫の写真のポストカードやシールを置いたコーナーが、良く目立つ棚にあります。猫のしあわせのために頑張る、オーナーの大学の後輩たちへのエールです。ついつい長居をしてしまう人が多いのもうなずける空間です。「みんなが自由に気軽に集まり、楽しくいられるサロンに」という思いは、しっかりと3年の実りをみせています。猫本専門の古本屋さんは他にないそうですが、サクラヤの本はどれもきれいで、状態の良いものばかりです。仕入れたすべての本をアルコールで拭いて埃を落とし、透明のカバーをきちんとかけています。なかには新刊本と思いこんでいて、支払いの時に定価と違うので「え、これ古本なのですか」と驚く人もいるそうです。こういった本を大切にする心入れの一つ、一つも居心地の良い空間をつくっているのだと感じます。

小さな生き物への愛情は筋金入り

猫本サロン サクラヤの店内
映さんは、ご両親とお兄さん二人に弟さんの6人家族で育ち、お父さん以外は全員猫好きです。映さんがもの心ついた時にはすでに、家には猫が数匹と犬に小鳥がいたそうで、まさに小さな生き物たちと家族同様に育ちました。お母さんは「つい目が合ってしまったから」と捨て猫を度々連れ帰っていたそうです。家にいた猫や犬のエピソードは語り尽くせないほどです。

「子ねこが生まれる時にはお母さん猫が呼びに来ました。お腹をさすってあげたり、全部生まれるまでずっと一緒についていました。小学校の頃からお産婆さん役をしていたのです」と、微笑んで話をされた時には驚きました。逆児で難産だった時は、お母さんとふたりで必死に子ねこを取り上げたそうです。強い兄弟猫に押しやられて、なかなかお乳を飲めない弱い子ねこは、弟さんも自分のふところに入れて温め、授乳や排泄もさせてりっぱに育てたというのですから、櫻井家のみなさんの、猫との向き合い方は筋金入りです。
猫嫌いだったというお父さんですが、最後に白い子ねこ生まれた時に「白猫は神さんのお使いやから、よそにはやらん」と猫好きに鞍替えされ、その猫は20歳という長寿を全うしたそうです。
櫻井家には犬もいましたが、白猫が亡くなった後にやって来た黒トラねこと、とても仲が良く、黒トラが亡くなった時は、一週間くらい、その姿を探し回っていたという話や、お母さんが亡くなった時、そのわんちゃんは、ずっと側にいて4日間ごはんを食べなかったという話を聞いて、胸がいっぱいになりました。みんな本当に家族なのです。
サクラヤのあたたかい空気感は、猫本がたくさんあるからだけではなく、猫や犬と一緒に暮らし、気持ちを通わせた家族として最後まで見届けたことから生まれていると感じました。

猫が人の輪を広げてくれる、ゆるい場所

猫本サロン サクラヤの店内
映さんは「私は書店の仕事の経験がないし、本について知らないことが多いけれど、お客さんに教えてもらって、いろいろなことを知ることができました」と語ります。「こういう本はありませんか」と聞かれると「どこかにあるかなとお客さんと一緒に探したり」と笑います。このゆるく、それでいて親身な接客もサクラヤの魅力です。猫好きのためのマニアックな店というより、だれもが気軽に立ち寄って楽しく過ごせる場所です。
保護猫活動をしている人やボランティアで読み聞かせをしている人もやって来ます。「年齢がいって本を読むのはしんどいけれど、絵本は楽しくていい」と、時々顔を見せる人、常連の小学生のお母さんが一緒にやって来て「楽しい本屋さんですね」と安心したように言ってくれるなど、様々な人がやって来て、お客さん同士が親しくなることもしばしばとのことです。「外国の人でも猫好きな人は入って来た瞬間にわかります。言葉は話せなくても気持ちは通じますから、飼っている猫の写真をスマホで見せてくれて、一緒に笑ったり。人との出会いが本当に楽しいです」と映さんは語ります。
サクラヤの猫の絵本
将来、本のあるカフェを開きたいのでと、2、3か月ごとに猫の写真集を揃えている人もいると聞きました。そんな夢も育つ猫本サロン。学生時代、旅先から「櫻井金太様」と、猫の名前で絵葉書を送ってきたというオーナーのロマンと夢は続きます。映さんは「母が生きていたらきっとこの店を喜んでくれたと思います」と感慨を込めて続けました。オーナーの仕入れる本は、ますます増え、並べきれない本がまだたくさんあるそうです。
昨今は人通りが減り、少しさみしい日々ですが、多くの人が猫本探しや猫談義で盛り上がることができますように、一日も早くコロナウイルスと猛暑の影響が収束することを心から願っています。

 

猫本サロン 京都三条サクラヤ
京都市中京区 壬生馬場町5-1(京都三条会商店街)
営業時間:11:00~17、18:00頃
定休日:月曜日