東は友禅流しが見られたという堀川、西はJR二条駅に近い千本通りまで、全長800mの京都三条会商店街。食品、飲食店、雑貨、美容院、靴の修理専門や傘屋という稀少種のお店まで、大抵のことは間に合います。
常連さんだけでなく、一見でも気持ち良く、いい買い物ができます。青果、鮮魚、総菜など日々なじみのあるお店と、ジェラートやチョコレート、カフェなど、おしゃれ系のお店も増えて、お客さんもお店の人も、幅広い年代にわたっています。また、創業100年を超す老舗や個人店と、100円ショップやスーパーマーケットがごく自然に共存しているのも特徴です。必需品を買うことはもちろん、「買い物って楽しい」と思える商店街です。
ちょっとした買い物でも、聞けば大将や奥さんがいろいろ教えてくれます。ふた言、み言の会話が心を満たしてくれます。通りの中ほどには、祇園祭には御神輿三基が参集する「又旅社」もあり、古くからの京都の歴史を発見することもできます。「こういう京都がある、京都はやっぱり、ええとこや」と思える、商店街です。
始まりは明治にさかのぼる庶民の商店街
商店街の歴史は、明治期にさかのぼります。山陰線の開通や染織関連の隆盛もあり、近隣の農家が農作物を運び、多くの人が行き交い、室町から千本までの三条通りは、早くから賑わいを見せていました。飛躍的に発展したのは、大正から昭和初期ですが、近年は、地下鉄東西線の開通により山科区あたりのお客様が増え、「この商店街おもしろい、買い物しやすい」と思って訪れる地元以外のリピーターや、観光客も増えています。お盆直前の商店街へ出かけました。
京都産の野菜や各地の旬の果物を商うお店には、顔なじみのお客さんがやってきます。顔も名前もわかっている、気心の知れた間柄で、しかも「目利き」に希望を伝えれば、間違いのない買い物ができるのです。
もうすぐお盆ということで、店頭にはお供えセットが並んでいました。青柿、蓮の葉など、お供えのために特定の農家から仕入れています。「前は、ご先祖さんが乗られる千石豆という豆もあったのですが、今は作っている農家もほとんどなくて、もう手に入らなくなりました」という話を聞きました。
お盆のお供えのお膳の内容を書いたファイルも用意されています。「お供えをちゃんとするお家もだいぶ少なくなりましたけれど、ここらへんは、まだまだ、やってはります」とのこと。古くからの習わしを、まちに住む人々と暮らしを支える地元のお店によって伝えられています。
炭火で焼く鰻や鮎がおすすめのお店は、かつて川魚専門店。琵琶湖でとれた湖魚を扱っていたそうです。今は、お店で作る総菜が、毎日の食卓に、家庭の味と季節のうるおいとなっています。葉唐がらしの佃煮と小鯵の南蛮漬けをいただきました。支払いをした時「これからまだ歩かはるんやったら、買うたもん、預かっときますよ」と、一見の私に、思わぬ親切な言葉をかけてもらい感激。
三条会を訪れた目的は買い物ともう一つは「普通のかき氷」でした。入ったお店は昭和の初めに開業した、うどん屋さん。蒸し暑さに汗だくでしたが、まずは熱い志っぽくうどんをいただき、その後、かき氷にしました。
近頃はかき氷も流行りになっていて、豪華、おしゃれ、珍しさを競っているように思いますが、私は絶対「普通」が好きです。宇治氷は、注文の都度、抹茶を点てています。次回は宇治と決め、元気回復して、商店街歩きを始めました。
次は漬物屋さんで、瓜の朝漬けと壬生菜のひね漬け、梅干しを購入。並んでいるすべてが工場製品でなく、見るからに長年の製法で手ずから作ったという感じがします。商店街のサービスシール「リボンスタンプ」を「集めないと思いますので」と、お断りすると「スタンプの代わり、気持ちだけ」と、おつりをおまけしてくれました。
歩いていて気になった「猫本サロン」へ入りました。文学系の書籍や文庫、写真集などいい感じにディスプレーされていて、猫好きは夢中になって、つい長居しそうな空間です。
オーナーのお家には「まぐろは、大間のまぐろしか食べない」という、超美食猫が家族なのだそうです。みんなが自由に気楽に来てくれて、楽しくいられるサロンのような空間にしたいという願いを持ってオープンして、ちょうど一周年を迎えました。おなじみも増えてきて、最近はここで宿題をする小学生もいるそうです。商店街の進化のかたちのひとつです。
通りの一番西のほうにある、傘専門店は、全商品日本製です。京都で唯一の製造会社が昨年廃業してしまったそうです。でも、頑張って製造を続けている取り引き先もあるので、こっちも続けてます、とのことでした。最近は遠方からのお客さん増え、日曜に来る人が多いので、日曜休みにできないと、笑っていました。
昔からの習わしを、普通に続ける地域
通りの中ほどにある「又旅社」は、貞観11年(869年)、疫病退散を願い、始まった祇園会ゆかりの神社です。66本の剣鉾を立てて、祇園社の御神輿を迎えた神泉苑の南端に位置します。
お父さんと小学生の女の子二人が、鳥居の前できちんと一礼してなかへ入っていきました。本殿の前では、きちんと二礼二拍一礼されていました。
ご近所に住んでいて、去年の祇園祭の粽を納めに来られたのだそうです。毎年続けていると話されていましたが、それがごく自然で「京都の伝統を守っています」というような気負いはまったくないところが、またすごいと感じました。
生活様式や嗜好、家族構成の変化により、商店街も様々な工夫や新しい方針で、より暮らしに密着した、魅力のある存在であることを追求しています。
三条会で出会うことができたお店の方とのやりとりや心遣いは「おもてなし」「ホスピタリティー」などという言葉とはまた違う、本当の快さ、買い物の楽しさを実感しました。
そして三条会のような商店街が、地域に支持され役割を発揮していくことが、京都に暮らす喜びでもあると実感しました。