秋の始まりに 日本酒が合う

暑さは続いても、日差しは透明になり、時折り心地よい風が吹いてきます。
夏の終わりから初秋にかけて、日本酒の様々な味わい方を楽しめます。原酒をオンザロックやソーダ割できりっと。寒造りのお酒をゆっくり熟成させた、まろやかで軽快な、初秋のひやおろしは、冷酒や冷や(常温)で等々。
「原酒と生酒は違うの?」「ひやおろしって何?」わからないことはいろいろありますが、知りたければお店で聞いて教えてもらうのが一番です。うれしいことに、通でなくても気軽に何でも聞けるお店があります。夏の名残りををいとおしみ、秋の走りを喜ぶかたわらに、今年は日本酒が加わります。

洛中唯一の蔵の清々しく溌剌とした空気


建都の新築分譲マンション、フェミネンス二条城北の近くに、伝統ある酒蔵の建つ、ふと立ち止まりたくなる一画があります。ほのかにお酒の香りも漂ってきます。
二条城の北側は、豊臣秀吉が造った聚楽第があったところです。昔から、千利休も茶の湯に使ったとされる、良い水が湧き出ていました。今もその水脈が枯れることはありません。
明治26年創業の佐々木酒造は、当時131軒もあったなかで残った「洛中唯一」の酒蔵です。歴史的な名を冠した「聚楽第」や作家川端康成が「この酒の風味こそ京の味」と絶賛し、自著の名を揮ごうした「古都」をはじめ「洛中伝承」の製法を受け継いだ酒造りを続けています。

夏の名残に冷ややロックで味わいたい、純米吟醸原酒(左)と、蔵出し原酒

また、伝統の清酒の製法である麹糖化技術を生かした、天然由来・健康志向に応える米麹飲料を開発するなど、進取の精神をも併せ持った企業としても注目されています。
出荷やお客さんの応対など、お店では、若いスタッフのみなさんがきびきびと立ち働き、重厚な蔵のなかに、新しい息吹が満ちていました。
ごくごく初歩的な質問に対して、丁寧に説明してくれました。もうすぐ終わってしまうので、ぜひ味わってみてと、初夏に桶の封を切り、火をいれずに瓶詰めした蔵出し原酒と、低温貯蔵した純米吟醸原酒をいただきました。原酒は、搾ったお酒に水を加えていないため、アルコール度数は高くなるので、飲み方はオンザロックや冷やで。

佐々木社長のお話では、今年は気温が高い日が続いたので、お酒の熟成が早いそうです。お米つくりも含め、その年、その季節の気象条件にも左右され、それぞれの工程で細やかな気配りをして、やっと良いお酒になるのですね。
夏を越したお酒が熟成して、秋に旨みがのってくることを「秋上がり」と言います。
おいしさとともに、無事に良いお酒ができたことを喜ぶ晴れ晴れとした心も込められているように感じます。

佐々木酒造の蔵と造り酒屋とひと目でわかる煙突

佐々木社長の兄で俳優の佐々木蔵之介さんという大看板と並んで、佐々木酒造イメージキャラクターの、ニャンコのあーちゃん、ちーちゃん、ちびこちゃんも大活躍しています。みんなで盛り立てる佐々木酒造の風は、確実に日本酒の裾野を広げています。
創業当時のレンガ造りの煙突は、今は使われていませんが、大切に残されています。洛中伝承の精神でお酒造りを続ける気概と、誇りの象徴のように見えてきます。

垣根なんて最初からない、角打ちです

開店の時、佐々木酒造「古都」のこも樽で鏡開きをし、佐々木社長もお祝いに来られたそうです。

木の看板には、SAKE、COFFEE、TABAKOと書かれ、「木の家」という感じのお店です。開かれた雰囲気の空間に、自然と足を踏み入れていました。
ご近所に住んでいるというお客さんが、昼間一人でビールを飲んでいます。そのお客さんから、ここが100年くらい続く老舗の酒屋さんであること、外へ出ていた息子さんが帰ってきて、おととしからこのスタイルのお店を始めたこと、気楽に飲めてお客さん同士で話ができるのが楽しいなど、お店へ入ってすぐにこのお店のあらましを聞きました。
真ん中にある正方形のがっしりした木のテーブルが、とてもいい役目をしています。

山形県米鶴酒造の夏純米、蛍ラベル

お酒は京都を中心に、石川、新潟、山形など、「帰って来た息子さん」の、店主高井さんが選んだ、それぞれに主張のあるお酒が揃っています。グラスなら気軽に試し飲みができますし、もちろん1本買いもできます。今、入荷待ちが多い丹後・伊根町の向井酒造、伏見の月の桂、そしてご近所でもある佐々木酒造のお酒も各種あります。
お酒を飲めない人も、ここへ来て楽しめるように、伏見区にあるカフェの自家焙煎豆のコーヒーがあり、オリーブオイルが大好きな高井さんの目にかなった、ハーブ入りのオリーブオイルの小さなボトルは、気のいた贈り物にもよさそうです。

はっさくを使った京都のクラフトビール

暮れなずむ頃、仕事帰りに軽く一杯という、女性グループが入ってきました。すぐに、ごく自然に言葉を交わすようになります。軽やかであり、気取る必要も物知りである必要もない、それでいてよそよそしくない、この空間の間合いはとても気持ちの良いものです。
リニューアルオープンしてから、今年の12月で2年。「コミュニケーションを通して、だれもが日本酒を楽しめる場としてのSAKE CUBE KYOTOは、このままに留まらず、もっと進化、革新していく気がします。ニューウェーブとか、スタイリッシュという言葉の範疇に入らない空間になっていくのではないでしょうか。それも楽しみです。

御用聞きをする酒屋、城の巽の方角にあり

いいね!がたくさんつきそうな、店の風貌。本当にいいですね

二条通りの、堀川と烏丸の中間くらいに、町並みになじんだ酒屋さんがあります。米屋、魚屋、八百屋など「屋」のつくお店が急激に減り、今や残っているお店はめったになくなりました。西本酒店は、二条城の巽の方角(東南)にあります。初代が明治の初めに、店舗を構える時、家の相がこの方角が良いという見立てから、この地に決めたのだそうです。
旧学区は「城巽(じょうそん)学区」であり、以前城巽中学校がありました。初代の西本与三吉さんは、自家醸造した清酒に「城巽菊」と名付け販売していました。
京都の底冷えが育んだ、優雅で気品漂うお酒だったそうです。戦争により製造が中断されてしまいました。城巽菊の復活を願う三代目、現店主の西本正博さんは、各地の蔵元を訪ねてまわり、滋賀県の酒造家と出会い、平成14年に復活を果たすことができました。

西本酒店でも、お店の前に場所を設けて角打ちで城巽菊をはじめとする日本酒や生ビールを楽しめます。以前は「お風呂上りに、パジャマのままでどうぞ」というキャッチフレーズで、近所へ生ビールの配達をしていたそうです。とても好評だったけれど、配達が大変で止むなく中止したそうです。そんな出前が頼めるなら、需要は多いでしょう。

味がある、店主手描きのPOP

店内には、ぎっしり並んだ日本酒、洋酒、焼酎のほかに、ツバメソースや焼きのりなどの、厳選された食料品も販売しています。「ここの海苔は本当に美味しくて、遠くの友達にも送っています」と、バスに乗って買いに来るお客さんもいます。ツバメソースは、京都では古くから愛用されてきたソースです。少量生産のため、ほとんど出回らないので、西本酒店に置いてあることを知って、遠方から買いに来る人もいます。
西本酒店では、サザエさんに登場する三河屋さんのように、今でも御用聞きや配達をしています。学生時代のアルバイトからずっとここで働いている、中村信彦さんの担当しています。中村さんの肩書は「番頭」です。取引先やお客さんからも「番頭さん」と呼ばれて、頼りにされています。店主の西本さんも「4代目になるべく修行中」と、頼もしそうです。蔵元も酒屋さんも、人と人をつなぎ、地域のコミュニティーに貢献しています。
「酒は百薬の長」ですね。

 

佐々木酒造株式会社
京都市上京区日暮通椹木町下ル北伊勢屋町727

SAKE CUBE KYOTO
京都市中京区二条通西洞院西入ル西大黒町343

西本酒店
京都市中京区姉小路通西洞院西入宮木町480