京町家の断熱 ケアリフォーム

寒の内。京の底冷えが身にしむ毎日です。
3回続けて、商家の町家をご紹介しましたが、この時期の町家での暮らしは、なかなか厳しいものがあります。
兼好法師が「家の作りやうは、夏をむねとすべし」と、徒然草に書き残しているように、京町家は夏の暑さをどうしのぐかに、重きを置いています。確かに京都の夏は、かなりの蒸し暑さです。が、冬の寒さも耐え難いことも事実です。兼好法師は「冬はいかなる所にも住まる」と言っていますが、そんなわけにはまいりません。
家も住む人も年を重ね、家族構成も変わります。京町家は残していきたい、すばらしい財産ですが、そこで毎日生活していくには、昔のままでは難しいというのが現実です。その時、どうすればいいのか。
思いの丈をさらけ出し、時間をかけて信頼関係を築いて、お客様と建都が一緒に取り組んだ、毎日笑顔になれる、幸せに暮らせる、リフォーム&リノベーションの例をご紹介いたします。

テーマは「リフォームしたことに気が付かないリフォーム」

ケアリフォームがご縁となってお付合いのあるお客様から、入院中のお母様が退院してからの生活を考えたご相談をいただきました。「冬のすき間風が寒いので、木製のガラス戸をアルミ製にしたい」「夏は虫が入って来るので網戸を付けたいというご要望でした。
早速お宅に伺って、現場調査をさせていただきました。アルミサッシを取り付けたい所の床の高さが違うことや、寝室になるお部屋からトイレやお風呂へは、お部屋の外にある廊下を、庭伝いに行かなければならないなど、問題点も見えてきました。

ケアリフォーム施工前

京都市内の真ん中に建つ、築100年近いと思われるこの町家は、入院中のお母様が常日頃から、本当にきちんと手を入れ、みごとな状態で維持されていて、京都市の景観まちづくりの会の情報誌に掲載され、テレビでも放映されたほどです。襖の小さなほころびは、ご自身で繕われるなどして、一生懸命守ってこられたこの町家に、アルミサッシが入っていいのか。うーん。
とにかく、お母様ががっかりされないような「この町家になじんだ断熱工事」が必要でした。退院して戻られた時「何も変わったとこないなあ」と安心していただけるようにしなくては。だから今回のリフォームのテーマは「退院されたお母様が「リフォームに気付かない」なのです。

ケアリフォーム施工後

いろいろ考慮した結果、床の高さをまっすぐに調整し、もとの木製建具は残し、内側にインナーサッシを取り付け、将来、車いすでもトイレやお風呂に生けるように、廊下の段差を解消しました。網戸も取り付け完了。
「何か工事しはりました?」という、目立たなさです。どうか気にいっていただけますようにというか、リフォームしたことに気がつかれませんように」と祈るような気持でした。

12年前のリフォームからお客様とのつながり

お母様が無事退院されて後、娘さんから「母は家に戻って3日目にやっと、インナーサッシに気付きました。これで冬も寒さを心配しなくていいねと、みんなで喜んでいます」とメールが届きました。
「テーマの、リフォームしたことに気が付かない、は大成功」とも言っていただけました。よかった、本当によかった、やった!

ケアリフォーム施工前

ケアリフォーム施工後

今回のリフォームは、12年前にさせていただいたトイレ改修と廊下の欄干手すりの取り付けからのご縁です。当時、病気で左手が不自由になられたご主人のためのケアリフォームでしたが、娘さんの介助で、車椅子でトイレに行かれるお母様の様子を見て、12年前のリフォームが役立っているとわかり、とてもうれしく思いました。
また建具や部材など、使えるもの、慣れ親しんだものを残して改修することを、いつも心がけています。

トイレの天井にある換気口はひょうたん形。そのまま生かしました。

この町家のケアリフォームを通して、あらためて京町家に息づく先人の住まい方の知恵、暮らしの文化に感じ入りましたし、お客様の要望や住まいへの思い入れを大切にしてリフォームを完成してくださった、それぞれの専門の職人さんたちにも、感謝の気持ちでいっぱいです。
ケアリフォームという仕事を通して、本当にたくさんのことを教えていただき、考えることができました。建都が手がけてきた「住む人の視点」に立った、リノベーションやケアリフォームを、随時ご紹介してまいりますので、今後ともどうぞよろしくおつき合いください。