しきたりを受け継ぐ 京都の商家のお正月

建都の町家探訪の3回目。築150年の京町家で、京扇子の製造販売を営む大西さんのお家の、伝統的なお正月迎えについて教えていただきました。
新年のお祝いにだけ使われるお膳やお椀、掛け軸も決まりのもの。家族の好みも取り入れながらおせちを作り、お鏡をお供えし、注連縄を飾って、大西家のお正月準備は調い、つつがなく新年を迎えます。

銘々のお膳でお雑煮を祝う

お正月のお祝いにだけ使うお膳とお椀

三代目当主久雄さんの奥様、優子さんが、一年間仕舞われていたお膳とお椀を取り出して、あらためます。男性は低いお膳に朱塗りのお椀、女性は外側が黒で内が朱のお椀に足付きのお膳です。しばらくお膳は使っていなかったそうですが、数年前からまた使い始めた時「やっぱり、お雑煮はこれで祝わんと」と思ったそうです。
家族みんな揃ってお膳について、家紋の入ったお椀でお雑煮を祝う元旦は、どんなに清々しいことでしょう。今年は、お孫さんの慶君も小さなお膳を前に、席に連なります。2歳の子の目にはどのように映るのでしょうか。

床の間を背にした一番端は、孫の慶君のお膳
お正月の掛け軸は「初日と波涛」がきまり

お正月の準備にてんてこ舞いのさなか、お椀で遊んだり、床の間にあがったりして、優子さんに叱られていましたが「うちのお正月」は、そうやって自然と心と体のなかにしみこんでいくのだろうと感じました。
ものごころがつく前から扇子も京町家の暮らしも日常という環境で育つ慶君に、大きくなったら、ぜひ話を聞いてみたいものだと思います。

大西家のお雑煮とおせち

白みそのお雑煮が映える朱のお椀

京都のお雑煮は白みそが決まり。大西さんのお家でも、もちろん、昆布でだしを引いた白みそ仕立てです。人の頭になるようにと、大きな頭いもを切らずに一人に一つ。こいもも添えて、お雑煮大根は輪切りにします。お餅は丸い小餅ですから、角のないものばかりで、新しい一年も、人と争うことなく丸くおさめて暮らせますように、という意味が込められています。お椀に入れたら最後に花かつおをふんわりとかけます。
「みんな白いもんばかりでしょう。彩りがないと言って、赤い金時にんじんや緑の菜っぱを入れたりなんかしたら、あかんのよ。お雑煮は神様にお供えして、一緒にいただくものやから清浄な白い色。お椀は女用も、外側は黒でも内は朱やから紅白。白がよう映えてきれいでしょ」と、優子さんは教えてくれました。
また「私が嫁いで来た時、白みそはとても体が温まるから、冬の寒い寒い台所で働く、女の人の体を思って使うのやと、聞いたの」と続けました。はんなりという言葉と同様に「京都のいけず」も有名になってしまっていますが、京都の人の本当の心根は、人を思いやるやさしいものなのです。

大西家のおせちは、ごまめ、数の子、たたきごぼう、黒豆、お煮しめ、かまぼこなどのお決まりのもののほかに、家族の好みのものも加えています。優子さんの得意なおせちは、ごまめだそうです。お祝いのものなので、頭を落とさないように、気をつけて作らないとなりません。甘辛い味がからみながらも、ごまめ自体はかりっとしていて絶品。大らかに盛り合わせた御馳走は、毎年多くのお客様を楽しませています。

また今は、祝うお家も少なくなった「にらみ鯛」も、大西さんは毎年、魚屋さんに頼んで用意しています。以前「おにらみやす」と言って、三が日は箸をつけてはいけなかったと、聞いた時は、へぇー、おもしろいなと思いましたが、大西家ではあまりにらまないで元旦から、おいしくいただいているそうです。
習わしも、こんなふうに変化していくのは、良いことのように思います。

京町家の文化を楽しく発信


風格のあるどっしりした構えの玄関にりっぱな注連縄が釣り合っています。京都では、このように、ちょうど良く釣り合いがとれていることを「つろくする」と言って、大切なこととしています。京町家が今もその魅力を放ち「本当に京都らしい京都」の代表であるのも、そこに暮らしている人の息づかいを感じられるからであると思います。
そしてそこに暮らす人達はまた、当然のことながら現代の社会に生きる人達です。便利さも必要、以前と同じようには、諸般の事情からできないこともあるでしょう。それでも折り合いをつけながら、できることは続けていこうとして努力をされていることも確かです。

大西さんも「うちなんか、そんな大したことはできてないし。おせちの材料もスーパーで買う物もあるし」と話されましたが、そうしながら「大西の家のお正月」を伝えています。そこに「京町家の品格につろくする」暮らし方を見るようです。
京都の良さや伝統とは。新しい年も、建都は京都のまちと住まいについてみなさんと一緒に考え、発信してまいります。このサイトのなかでも、みなさんに楽しいさんぽ道を見つけていただけますように。