十二月十三日は事始め。一年の区切りの日とされ、日頃、お世話になっているお家へ、鏡餅を持参して挨拶する習わしがありました。
花街以外はこの風習も廃れましたが、商家では、この日からお正月の準備を始めます。前回ご紹介した、建都の町家再生プロジェクトの燈籠町の家のご近所、扇子の製造販売を営む大西さんのお宅も、年内納めの仕事や、お正月の準備であわただしさを増しています。
広い邸内の大掃除は、この家を大切にした初代や、家造りに関わった多くの職人さんに思いを馳せる時にもなっているそうです。用事があって伺った日、忙しいなか、先日に続きお家を案内してくださいました。初代主の心意気、自然の素材とそれを生かす職人さんの技をつぶさに感じた、町家探訪その二です。
自然の素材を知りつくし、余すところなく生かす
様々な意匠と伝統の色彩の扇子が並ぶ店の間の奥は「供待ち」となっています。しばらく前の時代まで、大店の旦那さんは、取引先へは必ず、運転手さんや丁稚さんなどのお供を伴って行ったそうです。旦那さんが商談をしている間、お供が待っていたのが「供待ち」です。
商談が長引けば待ち時間も長くなります。「立って待つのは辛かろう、雨の中待つのは辛かろう」と、初代の常次郎さんの心遣いから生まれたものです。お茶時の際の寄付きのような趣のある造りです。働く人を大切にした常次郎さんの人柄がしのばれます。現存する京町家でも、供待ちのある家は少ないとのこと。この供待ちは、大西常商店を象徴する重要な空間なのだと感じました。
供待ちに続く「坪庭」も、数寄を凝らした造りで、常次郎さんの洗練された文化性を感じます。壁のように張られた竹垣は「木賊張り」という工法で、釘を一本も使わずにすき間なく竹を張り合わせてあります。竹の節をうまく生かして、まっすぐに伸びる木賊のように組み合わせるのは、素材の持ち味やくせを飲み込み、それを生かす技と美意識をあわせ持った、当時の職人さんの力量に驚きます。
建材も技も、地域の中で循環させ、京町家と、まちなかの景観を守る
離れの二階は、響きが良いことから、長唄のお稽古にも使われています。お稽古の環境としては最高でしょう。階段の手すりや、長押(なげし)、床柱などは、材木の自然な枝ぶりや木肌を巧みに生かしています。押入れのふすまには、古い更紗が張られ、こんなところにも、お茶や能を嗜んだ常次郎さんの趣味の良さが伺えます。
また、お茶事の際に待合として使われている一階の部屋も、ふすまの引手や床の間の違い棚の建具など、至るところに専門の職人の手仕事の力がみなぎっています。
京町家はメディアに注目され、多くの人が憧れを抱く、京都らしさの代表的なものですが、維持し、住み続けることは大変な負担であり、伝統の技術の継承も年々困難になっています。
建都では早くからプロジェクトをたちあげ、住み続けられる家屋として、京町家を改修し、維持する取り組みを続けています。
「住まいの文化」を継承する「地産地消の京町家再生」をめざし、町家の持ち主の方々や、地域コミュニティーのための、一助になっていきたいと考えています。
住み続けたい京都。大好きな京都。あこがれの京都。大西さん一家は、初代から順番に受け継いきた町家で、四季の彩りを実感しながら、変化を受け入れながらしなやかに、芯はぶれずに、ていねいに暮らしています。