時代の彩りと空気を 伝える紙のもの

デジタル化が進み、スマートフォンがあれば情報をいち早く受け取り、本は電子書籍で読めます。それにつれて紙の印刷物がずいぶん少なくなり、紙だから伝わるものがあるのにと、さみしい気持ちのこの頃でしたが「アンティーク&ヴィンテージプリント」を集めたお店「Comfy design(コンフィーデザイン)」に出会いました。
1700~1800年代はじめ、1900年代にかけてヨーロッパやアメリカで制作された図鑑やポスター、書籍、ラベル、カードなど、今の最先端の技術にはみられないあたたかみや美しさを感じます。すべて店主みずからフランス、イギリス、北欧で買い付けたものです。知り合いのお宅を訪問したような雰囲気の空間で、店主のマキさんに話をお聞きしました。

雑貨からアンティークプリント専門に

コンフィーデザインの外観コンフィーデザインのマキさん
マキさんは子どもの頃から古いものが好きだったそうで、おかあさんの1970~80年代の洋服がおしゃれでかわいかったので着ていたという感性の持ち主です。そして20代のはじめには大阪から京都へ度々来て骨董屋さんめぐりをしたそうです。
「今なら、とても入っていけない骨董屋さんへも若気の至りで入りました」と笑って話してくれましたが、たくさん良いものを見てお店の人からいろいろ教えてもらったことが、後々の糧になったのだと思います。
コンフィーデザインの店内
以前扱っていたアンティーク雑貨の販売をしていましたが、雑貨のお店が急激に増えたことと、インテリア関係の勉強をしていたこともあり、アンティークプリントはインテリアとして楽しめると考え、紙もの専門に決めて再スタートしました。商品は1000点を超え、さらに増えているそうで、取材に伺った日も荷物が届いたところでした。
コンフィーデザインのアンティークプリント
1700~1800年代の銅版画に手作業で彩色された植物や鳥の図録は、実物を忠実に描いているのですが、本当に細やかに彩色がほどこされ、また余白の取り方や配置のバランスもみごとです。お客さんに気の遠くなるような細かい彩色を手仕事でしていると説明すると、みんなおどろくそうです。
ラ・ヴィ・パリジェンヌ
1863年に創刊されたフランスの週刊誌「LA VIE PARISIENNE(ラ・ヴィ・パリジェンヌ)」は当時の売れっ子イラストレーターの作品が表紙や広告ページをサイン入りで飾っています。
女性たちのしぐさや表情、ファッションも楽しめる大型サイズです。コンフィーデザインのすばらしいコレクションのひとつです。1900年代テレビコマーシャルの時代になる前のポスターや雑誌広告は、力のあるイラストレーターやデザイナーが腕を振るっています。広告が一般に届くようになった幕開けの時代に、制作にかかわった人たちのエネルギーが伝わってきます。
マキさんは「手彩色の部分をルーペで見ると少しはみ出していることがあるけれど、それも愛おしい」と感じるそうです。彩色に手を動かしている名もない人たちを思うと情がわいてきます。紙の手ざわりや色合いから遠いヨーロッパの昔の職人さんを知っているような心持ちになりました。紙が伝えてくれる豊かさです。

心にひびく自分がすきなものが一番

コンフィーデザインの店内コンフィーデザインのアンティーク
お店にはいい具合に年を経たテーブルやいす、ランプシェード、鏡、マントルピースなど家具もあります。マキさんは「錆び、キズやへこみも味になります」と語ります。希望があれば販売するとのこと。錆び、キズ、へこみを味として長く愛用してくれる人のもとへ行くのもいいなと思いました。
コンフィーデザインのボタニカルアート
お客さんに「何がおすすめですか」とたずねられることもあるそうですが、手はじめには植物の彩色したものを提案するとのことでした。はじめてでも、このようなアドバイスがあればどきどきしなくて安心できます。
そのうえで「自分がすきなものが一番ということを大切にしてほしい。無名のプリントであっても自分の心にひびくもの、直観を信じて選んでほしい」と続けました。
アンティークも希少なものは当然高額ですし、そこに価値もあります。それは一つのしっかりした基準として、あとは信頼できるアドバイスと自分のすきという気持で決めることができるかどうかだと思いました。それを自分に問うてみると、けっこうぐらぐらしそうな気もしてきます。
「自分の好きが一番、自分の心にひびくものを大切に」という言葉は、毎日を送るなかのいろいろな場面にも生きてくる言葉だと感じました。

改めて感じる京都のブランド力

以前ご紹介した昆布屋さんもある昔ながらの北野商店街

コンフィーデザインは、通称下の森と呼ばれる北野商店街にあります。顔なじみのお客さんが変わらず通って日常の買い物をする地域密着型の商店街です。
偶然通りかかってお店を見つけた時は「雰囲気の違うお店」と感じましたが、そこがまたこういう商店街のおもしろいところだとも思います。ここでオープンしたのは2019年4月。もうすぐ満3年を迎えます。この建物は前に洋品店だったそうで、広さも手ごろで一度見てすぐ決めて、自分たちで楽しく壁塗りをして入居したそうです。
もっとまちなかは考えなかったのですかという質問には「まちなかだと、お客さんがちょっと入ってみようかなと次々来られて、ゆっくりしてもらえないと思ったからです。気軽にゆっくりできるお店にしたかったので」という答えでした。
マキさんは京都で暮らして20年以上になるそうですが来たきっかけは「古いものを扱うなら京都、という軽いのりで引っ越して来ました」と笑いました。

壁に飾られているのはスウェーデンで作られた石版画の果物図鑑

紙ものだけのお店はお客さんは限定されると思いますが、紙がすきなひとは遠くからでもさがしてやってくるそうです。そしてオンラインで買ってくれたお客さんが京都観光の折にお店に寄ってくれたそうです。京都なら行きたいと思う「京都のブランド力」は強いと感じるそうです。京都は大学が多い街なので、時々学生さんも入って来るそうですが、かえって若い人のほうが緊張せずに入って来るので、アンティークプリントのこともいろいろ話せるのだそうです。「敷居を高く感じないで。気軽に入って、ゆっくりしてください」と願っています。
コンフィーデザイン
マキさんはもちろん、本は紙派です。「コーヒーを飲みながらページをめくるのと、クリックやタップするのとは全然違う、いちいちめくる楽しさがいい」そして「アンティーク屋はとてもエコだと思います」と続けました。
ものを大切に使い続けるというヨーロッパの人と、始末のこころでとことん使い切る日本人も本来は似ている気もします。急ぎすぎたり、少し疲れた時、古い紙の手ざわりや色合いがきっと気持ちをおだやかにしてくれます。
通勤に使っているという、赤いかわいい自転車が戸口にあれば開店しています。

 

コンフィーデザイン
京都市上京区三軒町48-7
営業時間 12:00~18:00
定休日 木曜日