縁をつないで 犬猫も人も幸せに

猫の恋、子猫は春の季語。昔から身近にいる猫は多くの句に詠まれています。
「あの声は 何いふ声ぞ 猫の恋(正岡子規)」、「なりふりも 親そっくりの子猫かな(小林一茶)」など、表現しようのない声や、無邪気な子猫の仕草を思い浮かべて、そうそうとうなずく方も多いのではないでしょうか。
早春の一日、訪れたのは、人と犬・猫の新しい出会いの場です。不幸な犬・猫を少しでも多く救いたい、安心できる家に迎えられるようにと、「動物たちの縁結び」に取り組む「京都縁(えん)の会」の定例の譲渡会を見学させていただきました。主役の犬・猫たちと保護主さん、スタッフのみなさん、また家に迎えることを考えているご家族が集まり、会場はあたたかくおだやかな空気に包まれていました。

愛情あふれる「自己紹介プレート」と、行き届いた設営

因幡堂 平等寺
会場は、ビルが立ち並ぶ京都の中心街にある「因幡堂 平等寺」のホールです。千年を超える歴史があり、がん封じのお寺としても知られ、人々の信仰を集めています。ご縁を結ぶに最高の場を貸してくださっています。

縁の会
縁の会のみなさんに声をかけられながらも緊張気味の面持ち

11時の開始時刻に、保護主さんと犬・猫が揃って、見学や家族に迎えたいと考えているみなさんを待っています。
広々として、おだやかな光が差し込む良い条件のもとで、ゆっくり顔合わせをして保護主さんにいろいろたずねたり、アドバイスをもらうなど和やかに楽しく会話が交わされていました。それぞれが「ワイヤーケージ」に入って参加するのが決まりです。車に乗せられて移動して着いたら知らない人たちに囲まれて緊張している子もいます。それでも騒いだり暴れたりすることなく一生懸命コミュニケーションをはかっていました。
縁の会縁の会
「この子は外で家族で暮らしていたのですが、夫婦で子育てしていたすばらしいパパなんですよ」「お外に長くいた子は、人になれるまでに時間がかかりましたが、だんだん心を許してくれて今は甘えっ子です」「この二人はきょうだいで、とても仲良しです。だから一緒に新しいお家へ行けたらいいのですが」
みんなそれぞれ個性があり、保護主さんはその性格や保護した時の状況など、質問に応じてきちんと伝えています。それぞれが持つ性格や健康状態も含めて、きちんと理解してもらうことが大切なのだということがよくわかりました。
お手製の紹介パネルは保護主さんの愛情にあふれ「うちの子」たちが魅力的に、しかし虚飾なしに紹介されていて、読んでいるこちらの気持ちもやさしくなりました。
縁の会縁の会
犬のエリアはサークル型のケージです。見学のみなさんも、その周りを囲んでゆっくりふれあいを楽しんでいます。「森永ちゃん」「明治ちゃん」すぐに名前を覚えてもらっていました。ずっと抱っこされている甘えっ子もいて、人間の子どもと同じなのだなあと改めて思いました。ケージを囲んでいた子どもたちは、お迎えした犬と散歩したり走ったりする場面を想い浮かべていたのかもしれません。
会のスタッフのみなさんも、笑顔できびきびと応対されていました。床には一面にシートが張られ、手づくりの表示で順路が示され、隅々まで気遣いされています。そして、会場へ来られない人たちにも、犬・猫たちの様子を知ってもらえるよう「インスタライブ配信」もされました。準備、そして当日の運営などさぞ大変なことと思いますが、それを感じさせない、動物と人との関係を実感できた譲渡会でした。
犬・猫と人が縁を結ぶには、こうした縁の下の支えが不可欠なのだと感じました。

人も犬・猫も幸せで平和な世の中のための一歩を

縁の会
当日は参加者に、手引きとなる「譲渡会へお越しの皆さまへ」、参加の目的などを書いてもらうアンケート用紙と一緒に「一時預かりボランティアさん募集」や他団体の譲渡会のチラシも手渡されました。
事情があって野良になったり、行き場のない犬・猫を引き取っている保護主さんは、複数を飼っている場合が多くあります。実際に会場で「今は6匹ですが以前は10匹保護していました」と話された保護主さんもいました。里親さんが見つかって家族として迎えられるのが一番ですが、そこまでに至らないこともあります。保護主さんの負担を少しでも軽くする、一時預かりボランティアさんが助けとなります。

縁の会
ゲージの中で眠りこける豪胆な黒猫ちゃん

一時預かりボランティアでも、家族として迎えたい場合でも2週間のトライアル期間を設けるなど「厳しいかな」と感じられるかもしれませんが、その条件をクリアする必要があります。それは単に厳しいのではなく、犬・猫と迎える人の双方にとってとても大切であり、それぞれが良い家族として暮らせるようになるために必要なことなのだと理解してもらうことの重要性の理解が深まりました。また保護される犬・猫、保護しきれない子も多くいることを知ってもらう機会としても譲渡会はいろいろな役割を果たしていると思いました。
犬・猫がすきだけれど飼える条件がないという人は「寄付」という援助・協力の方法もあります。京都の町の真ん中で、多くの人の協力で「縁を結ぶ」活動が続けられています。

「それぞれができること」の輪を広げる


縁の会と因幡薬師のご縁は、毎月8日に境内で開かれている「手づくり市」に、保護犬・猫について知ってもらうため写真を展示したことからでした。
譲渡会の会場として借りられないかをお話したしたところ快諾してくださったそうです。2017年6月に本格的にスタートして今年で8年目を迎えます。千年前から人々とともに歩んできたお寺は、今もまた、このようなかたちで町や人と親しくかかわる存在です。
縁の会では、今後[動物福祉]など学びにも力を入れていく考えです。2月は「欧米の犬猫福祉と日本の現状」について、8か国70か所の保護施設を取材し啓発に取り組む、情報発信サイト「ヒトノワ」代表の大西結衣さんのお話を聞く会を実施しました。
一人でも多くの人が「できること」で参加することが、小さな命と人が共生できる社会への、遠いようで一番確かな道であることを強く感じました。

 

京都縁の会 (きょうと えんのかい)
毎月第2日曜日に譲渡会開催