まちの面影を伝え 記憶に刻まれる並木道

毎朝、駅へ向かう道は桜並木が美しい。
まだ寒いなかで、枯れ枝のように見える梢に固いつぼみを見つけた時が、桜暦の始まりです。初々しい二分三分から、次々咲き始めると春の嵐が気にかかります。
今は緑の色濃く、葉を繁らせています。強い日差しをさえぎってくれる木陰をありがたく思う日もすぐでしょう。

京都市近郊の昭和初期に開発されたモダンな住宅地

この私鉄の駅周辺は、昭和の初めに上下水道が完備した住宅地が開発され、多くの学者や文化人、実業家が移り住み、東京の田園調布、大阪の千里や箕面などと並び、モダンな郊外型住宅のさきがけとなったそうです。
様々な人との交流があった、当時の文化的な雰囲気がうかがえる邸宅が、今も残っています。

地元の人々によって保たれる桜並木と景観

開発当初、新しい時代の住宅地にふさわしい街路樹として、ソメイヨシノが植えられ、美しい桜並木に成長しました。ソメイヨシノの樹齢は短く、細やかな管理が欠かせない大変さがありますが、地元の方の、桜とこのまちへ寄せる思いは強く、地域のシンボルとして大切にされています。秋には、見事に色付いたたくさんの落ち葉を、ご近所の方がいつも掃除しています。
こうした住む人の意識が、当初の理想が失われず、魅力を放つ住宅地を持続させているのだと思います。

アカデミックな白川通と葵祭ゆかりの御蔭通の並木

比叡山の麓を源流とする白川に沿った、一番東の主要な通りの白川通。
銀閣寺道を北へ、しばらく欅並木が続きます。造形芸術大学、おいしいパン屋さん、入ってみたくなるカフェやレストランがあり、若い人がたくさん行き交います。欅並木が洗練された雰囲気をかもしだし、京都に使われる形容詞の「はんなり」とは違う開放的な空気を感じます。
御蔭通は、葵祭の三日前、五月十二日に執り行われる御蔭祭の神事の行列が通ります。並木はめずらしいエンジュです。「延寿」に通じる縁起の良い木とされているそうです。
以前、車で通りかかった時、房のような白い花を付けているのを見て、いったい何という木なのかと思ったことがありました。マメ科のエンジュと知ったのはずっと後のことでした。

花が咲き始めるのは7月頃です。

まちに四季の彩りを添える並木道を愛おしむ

たくさんの落ち葉の掃除は本当に大変だと思います。「その苦労を知らんと、並木道がきれいなんて」とおっしゃる向きもおありと思いますが、気忙しい毎日に、季節の訪れという自然の営みを教えてくれる木々を、愛おしく思う気持ちを持っていたいと思います。