京野菜とともに 海外にも挑戦

京都市南区で農業を営む石割照久さんは、2年前、大学・企業と共同し、フランスのパリ郊外で京野菜の栽培を始めました。先祖から農地を受け継いで10代目になりますが、海外進出は初めての経験です。それもこれも、農業への危機感が石割さんを動かしました。

桂瓜を収穫する石割さん
石割さんが農業を継いだ時、周囲から聞こえてきたのは「農業は大変だ。農業では暮らしていけない。後継者がいない」という消極的な声でした。そこで、「よっしゃ。それなら、ちゃんと儲かる農業をやってやろうやないか」と、30年前にIT関連企業を退職し、「新しい農業の追求」を続けてきました。
フランスで栽培している野菜は、賀茂なす、九条ねぎ、伏見とうがらし、大根、枝豆などです。異常寒波など困難な条件もありましたが、その都度対策をとって、フランスの風土に合うよう工夫してきました。その結果、味や色も「これなら」という野菜ができるようになり、事業は軌道に乗り始めています。
石割さんが作る野菜は、京都の歴史に育まれてきたものです。都の朝廷や社寺仏閣へは、各地から様々な産物が献上され、そのなかに野菜もあったわけです。たとえば、聖護院だいこんは尾張、聖護院かぶは近江、鹿ケ谷かぼちゃは東北というように、京野菜の祖先は日本の各地から、京へのぼって来たのです。
石割さんによると、九条ねぎは、伏見稲荷大社が建立される時に大阪から入ってきて、氏子の多くが住んでいた、九条近辺で栽培されるようになったということです。適地適作の野菜、その時代その時代の農家の研究心が、より良い京野菜に変えてきたと言えます。

価値あるものをきちんと売る

石割農園から望む桂川
石割さんの農園は、桂川に沿って広がっています。このあたりは、桂川、宇治川、木津川の三川合流視点に近く、昔から氾濫を繰り返して肥沃な土壌となり、平安時代から農地とされていたそうです。
石割さんは、料理人からの求めに応じて、京野菜を中心に年間約100種類の野菜を栽培し、納品する「オーダーメードの野菜づくり」のシステムを確立しました。

伝統野菜以外にも、ホテルからの依頼で栽培している極小カボチャ
伝統野菜以外にもホテルからの依頼で栽培している極小カボチャを手にする石割さん

「どうしたらよいものができ、それをどうやって売っていったら良いか」を必死に考えた結果でした。出荷した時、価格が市場の高い安いに左右されず、自ら値段をつけられることが大切だと考えたからです。そのためには値段の根拠となるコスト計算もきちんとしなければなりません。安値大量生産ではなく、質の高い、価値の高い野菜を、色やサイズまで細かい要求にも応えて、多くの料理人の信頼を得ています。「いいものを作り、直接売る方法」は、今他の農家にも確実に広がっています。

発想を新しくして、みんなで今より上を

石割さんは「農家みんなの暮らしが良くなればと、若い人に、知っていること、到達したことはどんどん惜しげなく教えています。そうやって、みんなで発想を新しくして、今より上を目指していけたらと願っています。」
フランスで栽培した野菜を、現地のシェフや関係者に試食してもらったところ「使ってみたいと好評だったとのこと。石割さんが信条とするのは「食べる人が幸せになる野菜」です。

石割さんが育てた野菜
艶々の皮がはち切れそうに張ったなす。茄子紺とは、こういう色なのかと思う美しさです。きゅうりや唐辛子は香りを放ち、石割さんが作った野菜はみんな、生気がみなぎっています。
保存されていた種から復活させた幻の伝統野菜「桂瓜」は、浅漬けにすると、それは爽やかなうす緑色、少し甘い香り、しゃきっとした食感がすばらしかったです。「フランスで京野菜の地産地消」が実現する日は近いかもしれません。