中秋の名月の日 へちま加持

月が美しい季節です。濃い藍の色を残した空に、くっきりと見える月の形は、まるみを帯びてきました。
旧暦八月十五日は中秋の名月。今年は10月4日です。十五夜のお月見は、すすきや萩など秋の七草やお団子をお供えして作物の収穫を感謝し、無病息災を願う行事です。また「芋名月」とも言われ、収穫した里芋をお供えする地域もあります。家庭でお月見の行事をすることは、おおかたなくなりましたが、収穫に感謝し、月を愛で、家族の健康を願う習わしは、受け継いでいきたいものです。
京都では様々な観月の催しが行われますが、洛北「赤山禅院(せきざんぜんいん)では、ぜんそく封じの「へちま加持」が今も伝えられ、毎年たくさんの人々が参詣します。全国各地のお祭や行事が、参加しやすい週末に行われていますが、へちま加持は「十五夜の月が、その日から、だんだん欠けていくように、病を減じさせるため」とされ、必ず旧暦八月十五日に行われます。

代々の住職は大阿闍梨が

鬼門除けの猿
いたずらをしないように金網に入れられた鬼門除けの猿

洛北修学院は、京都市内の中心部より早く秋を感じます。
天台宗延暦寺塔頭の赤山禅院は、陰陽道で鬼が出入りする方角とされる都の東北の表鬼門を守る、方除けのお寺として古くから信仰を集めてきました。また、荒行として知られ、7年かけて、比叡山の峰々をたどって礼拝する「千日回峰行」と関わりの深いお寺です。「赤山苦行」と呼ばれる厳しい行程があり、千日の満行を達成した「大阿闍梨」が代々住職を務められ、数々の加持祈祷が行われています。

千日回峰行に使われたわらじ
千日回峰行に使われたわらじ

ぜんそくや気管支炎を封じ込める「へちま加持」には、大阿闍梨から授けられる、へちまの種と「へちま護どく」を求めて、毎年たくさんの人が参拝します。へちま護どくとは、へちまを乾燥させて薄い紙のようにしたものに、ありがたい梵字と塔が書かれたお札です。「お札を戴いたら、これで大丈夫と安心してしまって、お酒をたくさん飲んだり食べ過ぎたりしてしまう人が多いのです。お札に頼るだけでなく、飲み過ぎた次の日は、休肝日にするとか、自分でも努力しないといけません」とご住職は笑いました。さもありなん、です。
月が満ちることを良しとすることが多いのに、へちま加持は、欠けていく月に無病息災の願いを託しています。月の明るさも、月のない晩の闇も肌で感じていた昔の人の、物事のとらえ方の豊かさを感じます。

ちなみに、後の月と呼ばれる旧暦九月十三日、十三夜の月は11月1日。豆名月、栗名月とも言い、栗や大豆、小豆、黒豆などの収穫の時期にあたります。「片見月は縁起が悪い」とされていますので、忘れないようにしましょう。

数々の由緒が、おおらかに同居

赤山禅院の鳥居
後水尾天皇より賜った「赤山大明神」の額
お姿おみくじ
赤山大明神のお姿おみくじは、寿老人の底に穴が開いていておみくじが入っています

東山三十六峰の赤山を背景に建つ、大きな鳥居は神仏習合の寺院であることを表しています。境内には、拝殿、本殿のほかに、地蔵堂、弁財天、「京の七福神」のうちの福禄寿を祀り、大阿闍梨が護摩供を行う不動堂、密教の重要な教えを表す門のように大きな数珠など、たくさんの建物や像があります。

赤山禅院の地蔵堂
紅葉の名所。葉先がわずかに色づいて

申の日の五日に赤山さんに詣でると吉運に恵まれるという評判がたち、江戸時代には「掛け寄せ(集金)の神様」と言われるようになり、そこから「五十払い(ごとばらい)」の商習慣が広まったとか。そして「敬老会発祥の地」でもあるなど、なんとまあ、様々な由緒があることでしょう。
天台密教の教えを守り、峻厳な行と縁の深い寺院は、今もなお、京都の人々の信仰厚く、「赤山さん」と呼ばれ、親しまれています。

 

皇城表鬼門 比叡山延暦寺 赤山禅院
京都府京都市左京区修学院開根坊町18