清々しい青竹に感じる 新年を迎える喜び

門松や神社のしめ縄の青竹の色が新年にふさわしく、気持ちも改まります。成長が早く、地下でしっかり根を張る生命力の強い竹は、古くから縁起のよいものとされてきました。少し前までは暮らしのごく身近にあった竹について、京都の西、乙訓で茶道や華道、料理の道具をはじめインテリア、内装や建築資材など幅広く製造する「竹屋の六代目」東洋竹工代表 大塚正洋さんに話をお聞きし、新しい年を迎えることの大切さを思いました。

仕事や暮らしになじみ、根付いた日本の竹

東洋竹工
東洋竹工では門松や、初釜に使う青竹の蓋置や花入れ、料理に使う容器や箸、お正月飾りなど、新年用のあれこれの納品が終わり、目くるめく忙しさから、少しほっとした雰囲気が漂っています。その時々の新しい工夫やデザインを加えながら、新年に青竹を使う意味、改まった清々しさが伝える習わしを大切にしています。

現在、日本では孟宗竹、真竹、淡竹の3種類で竹全体の90%を占めています。孟宗竹はざる、かご、箸、また作物の支柱や稲はざ、鰹の一本釣りや海の中に沈めて魚を囲う生けすなど竹は、農業や漁業、建築資材など広範囲に使われてきました。日本古来種の真竹は編みやすく材質に優れているため、様々な竹工芸品が作られ、細く割りやすい淡竹は、茶筅に加工されています。また、竹製品はそれぞれの用途に合わせて、より丈夫で使いやすく工夫が続けられ、進化してきました。たとえばお茶の加工工程では、静電気の起きない竹の道具は非常に適していて、茶葉をふるう「通し」という作業に使う目の細かい竹の“ふるい”は、重要な品評会に出品するお茶の出来栄えにも影響するほどです。

東洋竹工の展示室
たくさんの竹製品が展示さてれている東洋竹工の展示室

縄文時代の遺跡から、漆を施したざるや、土に残った網目が発掘されているほど、竹は日本の風土に結びついて利用されてきました。竹の起源については、筍を収穫する孟宗竹は中国江南省あたりから鹿児島へ伝わったという説が有だと思うと、大塚さん。しかし「そのルートなら沖縄を通るはずだけれど、沖縄には孟宗竹はない」そうで、渡来したルート解明にも興味がわきます。またインドネシアやタイにも、日本の「かぐや姫」の物語に似た「竹から生まれ月へかえる」類の伝説があるそうです。東南アジアには竹の産地も多く、竹を加工する技術も伝承されているということで、大塚さんは「アジアは同じ民族だったのではないかと思う」と続けました。竹から広がる壮大なロマンの一端です。

竹林再生のボランティア活動の支え手

竹林整備
竹林の整備をされる大塚正洋さん(中)と健介さん(右)

産業構造や暮らし方の変化のなかで、竹を優れた資材として使う場面はめっきり減りました。また、京都の伝統野菜に指定されている「京たけのこ」の栽培も、後継者難もあり減少し、荒れた竹林の再生と保全は大きな課題となっています。
この京のさんぽ道「京都の竹林再生 幼竹がメンマに」でご紹介した任意団体で、竹林の環境整備と活用に取り組む「籔の傍」の活動に大塚さんも参加しています。地道な、そして創造的で楽しく、幅広い年代が参加する活動です。東洋竹工製造部長の高木稔さん、息子さんの健介さんも指導にあたるなど、竹の専門家としてのバックアップを続けています。向日市が整備した「竹の径」沿いに進められている伝統的構法による竹垣つくりにも、みんなで取り組んでいます。
今後は、このように景観保全や伝統の職人の技の継承に市民がかかわり、にない手となる流れが歓迎され、広がるのではないと感じます。
竹自動車
「竹は日本、日本の京都」を世界に知らしめたのは、エジソンがフィラメントの素材に八幡の真竹を使ったことです。大塚さんは大学や竹の研究者と一緒に、竹皮から繊維をとる開発に取り組んだり「竹自転車」や「竹自動車」の共同開発にも参画しました。
「世界に知られた京都の竹も、ぼうっとしていたら忘れられてしまう。100年以上前に積み上げてくれた遺産を食いつぶすことのないように」と、今も変わらず「竹の可能性」をいつも考えています。それは勿論簡単なことではないはずですが、「竹のことは一日話しても足らん」と笑う大塚さんの探求心が留まることはありません。

「もっと、おもしろく」をこれからも

羽田空港国際線ターミナル
竹のイルミネーションは国際線ターミナルに飾られ、海外の方をお出迎え

東洋竹工では、伝統の技術や乙訓産の竹の、素材としての質の良さにこだわりつつ、常に新しい出会いへのアンテナを張っています。東京の六本木ヒルズや羽田空港ターミナルのイルミネーション事業の仕事も手掛けました。

京都市の創作行灯デザインコンペで最優秀賞を受賞した作品
京都市の創作行灯デザインコンペで最優秀賞を受賞した作品

立体的にカットされた竹の花入れ
立体的にカットされた竹の花入れ

その時に照明デザイナーと知り合い、竹という素材の可能性やおもしろさを生かした製品が生まれました。竹を繊細に編み込んだ照明器具、竹を「三次元」にカットして竹の繊維の立体的な表情と曲線が美しい花入れ、竹の切り口を生かしたインテリアなど、竹の持ち味をこれまでにない形で生かした製品の数々です。

一人用の竹せいろ竹の盛り籠
太い孟宗竹の節に穴を開けた青竹の筒を見せてくれました。それは一人用の「せいろ」でした。大塚さんいわく「青竹の容器や箸を、1か月たっても青い色をそのまま保てるのは、板場の力」。個性的な盛り籠も料理人さんから注文されたもので「竹のことや食材のことを本当に知っている、力のある料理人が料理を盛って使いこなせる」という言葉はとても説得力がありました。
大塚さんは「竹の需要は今が一番縮こまっている時。20年たって竹の仕事があるか。次にどうするかを考えないといけない。」と語り「そういう意味では息子も、しんどい時に後継ぎになって苦労が多いと思う」と、息子さんを思いやる言葉も聞かれました。しかし、すぐに「竹という素材は応用がきく。素材から完成まで、一貫してできるのは竹」と続けました。

お正月用の花入れ
お正月用の花入れ

竹の用途が少なくなった今、竹と言う素材と用途がピタッと合うものはなかなか難しいそうですが、そのなかでふすまや障子の敷居の溝にはめ込んですべりをよくする建築材「竹すべり」は今も製造販売が続くロングセラー商品です。
東洋竹工の会社案内に書かれたキャッチコピーは「もっと、おもしろく」です。まん丸い竹は存在せず、節もそれぞれ違い同じものはありません。自然の素材を形にする難しさであり、そのおもしろさを引き出すことに作り手としての楽しさがあると言えます。伝統・現代・自然素材という要素を組み合わせる苦労から次の「おもしろい」が生まれると感じました。すっぱりと潔い青竹のたたずまいが、いっそう清々しく感じられる年の始めです。

 

東洋竹工株式会社
向日市寺戸町久々相13-2
営業時間 8:30~17:00
定休日 土・日曜、祝日