光と響きの美しい 木造の教会

西大路通、朱の大鳥居の平野神社の向かい側に木造の教会が見えます。「尖った屋根」という先入観を持っていると、気がつかずに通り過ぎてしまうほど、周囲の町並に溶けこんでいます。簡素で凛とした高潔なたたずまいでありながら、開放的で、人々をあたたかく迎えてくれる雰囲気を感じます。
京のさんぽ道「桜が彩る京都の町並み」でも少しご紹介しました、建都が初めて施工した教会建築、西都(せいと)教会です。
建て替えを検討し始めてから、2011年11月の竣工までの道のりや、歴史や伝統の継承について、牧師の田部郁彦(たべふみひこ)さんに話をお聞きしました。

一年かけて丁寧に積み重ねた話し合い


西都教会の前身は明治時代にさかのぼります。当初、東大路五条の大谷廟に隣り合って建ち、当時の朝日新聞、「天声人語」に、その辺りが鳥辺山と呼ばれていたことから「右は天国左は極楽 私やどつちを鳥辺山」という狂歌を添えた記事が掲載されたことがあるそうです。モダンで新しいものと、古くからあるものとの共生という、京都の気風がうかがえる興味深い話です。
しかし、昭和30年代の高度成長期に、1号線の道路拡張のため移転を余儀なくされ、現在地に移りました。開発のため、教会が移転させられるという初めて聞く話に驚きました。時代の波の影響は、どんなところにも来るのですね。
今回の建て替えに際しては、反対意見や、これまでの建物とともに過ごした歳月への思いなども含め、時間をかけ、丁寧に話し合いを重ね、15名の「建築委員会」を起ち上げ、毎月1~2回会議を開き、一年かけて取り組み、総会でみんなの理解と同意を得て、建て替えを決定しました。
最大の課題の建築資金も、それぞれができる範囲と方法で献金し、実務もすべて教会員のみなさんでやり遂げました。田部牧師は「それは信仰のあらわれです。みんなが、他人事ではなく、自らかかわることを大切にしました」と語りました。

京都市まちなかこだわり住宅

考え抜かれた採光で実現した礼拝堂の光のグラデーション

また、設計の魚谷繁礼(うおやしげのり)さんは、建都施工の「京都市まちなかこだわり住宅」の設計も担当した方です。田部牧師から「教会建築に先入観がなく、一緒に考えてもらえる人にお願いしたいと思っています」と、ご相談を受け、魚谷さんをご紹介させていただきました。
田部牧師が書いた平面図を見てもらい、京都の景観と高温多湿の気候を考慮して、木造建築にすること。礼拝堂は人々が礼拝という行為を行って初めて、単なる虚しい空間から本当の礼拝堂になるということ、光のとり方などを理解してもらい、現在の建物が完成しました。

歴史に学び、伝統を継承する大切さ


12月の教会と言えば、私たちは即座にクリスマスと思い、ツリー、プレゼント、イブのご馳走やケーキを連想します。しかし、聖書にはキリストが生まれた日付は記されていないのだそうです。教会では25日に近い日曜日にクリスマス礼拝が行われ、その4週前の日曜日から24日までを「アドベント」(待降節たいこうせつ)と呼び、クリスマスの準備を始めるということです。そして「アドベント・カレンダー」があり、子どもたちは「クリスマスまであと何日」と楽しみにして待ち望むのだそうです。日本の「もういくつ寝ると、お正月」という気持ちに似ていますね。ささやかでも、暮らしに根付いた行事を楽しみに待つ。「待つ」という行為も大切にしたいと思います。
12月25日が当たり前と思っていたクリスマス。ギリシャ正教会など、いわゆる東方正教会はクリスマスを1月7日にするそうです。またクリスマスの装飾はヨーロッパなどでは1月6日まで飾るのが普通とか。

日曜礼拝は、ほっとできる、日常のなかの非日常と田部牧師は表現します。6日間普通の生活を送り、礼拝で御言葉という糧をいただき、また日常の世に出て行く。礼拝はまさに生活の一部であり、人生はそのくり返しと言えます。「キリスト教は歴史を大切にしてきました。今は先の見通しが難しい時ですが、そうした先が見えにくい時こそ、古いものに学ぶことが大切です。クリスマスのことでも、イベント化してしまったクリスマスから少し離れて、本来は何のためにあるのか、という問いを持ってほしいですね」と続けました。
「京都がなぜ、たくさんの新しいものを生み出せたのか。それは、背後に千年の都が築いてきた様々な築積があるからです。古いものの中から、新しいものが生まれます。ビートルズもしかり、新大陸アメリカではなく、歴史あるイギリスで生まれました。」歴史を学び、検証することの大切さが、身にしみこんだ田部牧師の言葉です。

50年先を見据えての木造建築と建都とのご縁


西都教会の設計により、魚谷さんが日本建築家協会関西建築家新人賞を受賞されたことは、西都教会にとっても大変喜ばしいことでした。
建都は、先述した「まちなかこだわり住宅」のように、京町家の再生とともに、住宅のケアリフォームや様々な事業所のお仕事もさせていただいています。

建都が設計監理でかかわらせていただいた修光学園様のワークセンターHalle!

社会福祉法人修光学園様もそのひとつで、長いおつき合いが続いています。(京のさんぽ道「京都府内産木材を活用した洋菓子店」「パン好き京都人に愛されています」)修光学園様での建都の仕事を見て信頼していただき、西都教会にご紹介くださいました。ご紹介くださった教会員の方のご両親は、初めに書きました東山の教会時代からの会員さんとのことです。結びつきの強さがしのばれます。
田部牧師には「納骨堂や旧教会堂の補修などその都度、親身に相談の乗っていただき問題解決に尽力していただきました。建築士の魚谷さんも建都さんのご紹介です。良いご縁ができて、何かと建都さんのお世話になっている教会員の方もいます」とお話しいただきました。

しっかりした木造建築は完成した後、年月を経ることで、その良さが増すという性質があります。そして当然補修も必要になります。木造の建物は、50年後くらい先を見据えて建てる必要があります。そうやって手を入れた木造建築は、私たちがいなくなっても、良さを増しながら長い年月を生き続けることができるのです。
京都の力は、継承されてきた文化や伝統を今の時代も受け継いでいる人が存在し、またそれに呼応する人々が必ずいることです。私たち建都も、いただいたご縁と信頼、社会とのかかわりや人と人のつながりを大切にして、お客様の喜びが社員一人一人の喜びとなるよう、人と建物のあり方を追究してまいります。
これからも、建都をどうぞよろしくお願いいたします。