西陣の京町家 古武邸のお正月迎え

京町家は、家を建てた主の思い、建築に携わった多くの職人さんたちの心意気と技術と、暮らしの文化を伝え、継承しています。
一年のうちで一番のハレの行事、お正月迎え。「西陣の京町家 古武邸の夏のしつらえ」でご紹介した、古武さんを再びお訪ねしました。

注文しなくても毎年届くきまりのもの


冬らしい冷え込みとなった歳末。店頭にはお節材料やお飾りや丸餅、鏡餅が並んでいました。買い物をする人で混み合い、目的のものを買うにもひと苦労。
古武さんのお家では、結び柳やお花、注連縄、根付きの松など、お正月のしつらえに必要なものはすべて、40年来のお付き合いの「等持院の花屋のおばさん」から届きます。あらためて注文することはなく、毎年決まって29日に届きます。毎月1度、仏さんのお花を届けに来る「等持院のおばさん」に、お正月の一切合切も任せているのです。

古武さんの町内は、江戸時代の古地図でそのまま歩ける、昔からの上京のまちです。古武さんのお家では、お正月のお雑煮に欠かせない頭芋(かしらいも)や、お飾りなどは上賀茂の農家から、振り売りで来ていました。「上賀茂のおばさん」は何人もいて、それぞれ得意先が決まっていて、代替わりしても娘さんやお嫁さんに引き継がれている例もあるそうです。
古武さんは「以前は、北野の天神さんの終い天神や、下の森商店街は、お正月用に必要なものを買いに来た人でごった返していた。今は観光のための市のようになってるし、下の森も扱う商品が変わったしね」と話されました。ことに西陣は織関連の仕事が減少したことと関連し、生活様式や家族構成が大きく変化したことが影響していると見ています。

今年は古武さん自身にも、かつてないことがありました。それは先述した「等持院の花屋のおばさん」から、お正月用の決まりのものが届かなかったのです。「どうなってるんやろう。大変や、困った」とあわてましたが「電話番号も名前も知らんしね。連絡のとりようがないんやわ。あそこ代替わりしはったんと違うかとも聞いたんやけど。こんなこと40年間、一度もなかったことやから」と、困惑されていました。
一夜飾りは縁起が悪いのでしませんから、あわてて目ぼしい所を走り回って調達されたそうです。当日になって届かないという事態に、古武さんの驚きと大変さは想像に難くありませんが、40年間、注文することもなく、連絡先や名前を聞くこともなく成立し、間違いがなかったという売買に感嘆しました。


お正月のしつらえは、まず玄関の松飾と注連縄から始めました。京都では、松飾は「根引き松」です。根を付けたままの若松を和紙で向かって右が上になるように巻き、水引を真結びにします。男松と女松の一対とします。
歳神様の目印となります。根付きの松を使うのは「しっかり根がつきますように」という願いを込めてとも、平安時代に貴族が年の初めの子の日に野遊びをして、根のついた松や若草を取ってきたことにちなむとも言われているそうです。

注連縄は何種類かあるようですが、古武さんのお家の注連縄の形は古くから京都にあるもので、裏千家今日庵も同じ形の注連縄だそうです。しかし、今この形のものを売っている所がほとんどなく、まちなかでも見かけなくなったと話されました。「そやから今日、この注連縄を探すの大変やったんや」と続けました。こういうところにも、変化が見てとれます。

掃除に明け暮れるお正月準備


座敷の床の間に、波と旭日に舞う鶴が描かれた色紙が掛けられ、結び柳が生けられました。いつもの年は、結び柳はもっとたっぷりあり、畳につくくらいの長さなのだそうです。
数年前から、掛け軸や花など室内のしつらえは息子さんが担当されていると伺いました。少なくとも次の世代が係わってくれているということは、とても喜ばしいことだと思います。

お茶会の前にはもっと綺麗にされるそうです

道具や掛け軸などのしつらえも大切ですが、実は掃除に一番手間暇かかるとのことでした。たとえば庭をとってみても、落ち葉は全部拾い、山茶花や椿の葉が汚れていたら手で拭き、枯れかけたり見苦しくなった花は摘むなど、細やかな手入れが欠かせず、お正月を前にまだやることがいろいろあるということで、本当にいつも目配りが必要なのだと感じました。

そして一番大切なことは、どこか傷んでいる個所はないかを調べ、早く手を打っておくことです。古武さんは、よほどの大仕事や専門的なことでない限り、材料も工夫して自分で補修しています。「掃除」の意味は、こういったことも含んでいるのです。代々の主はこのようにして、生業の場であり暮らしの場である町家を維持継承してきたことを教えてもらいました。

子どもたちの町家体験「新春子どもお茶会」


一昨年から、京町家古武を会場に、京都市内外の小学校3年生から6年生、40数名が参加して「新春子どもお茶会~百人一首であそぼ~」が開かれています。これは二つのNPO共済の企画で、第4回めが1月5日に行われます。午前午後かく20名の募集はすぐに定員に達する関心の高さです。

古武さんは、室町時代からの上京の歴史と京町家の成り立ちと発展をお手製の町家模型や図表を駆使して、お話しされます。「百人一首、こま、凧。みんなお正月に楽しんでいたことです。こういった和の文化を子どもに達に体験してもらい、町家がどんなものか知ってもらえたら」と期待を込めています。2,3回と続けて、参加した子供たちが興味を示し、初めての体験や発見を楽しんでいると実感しました。

「建具の入れ替えは主人の仕事」と、7月に話しておられましたが、襖に替わった室内を見て「町家を継承していくには、農業と林業が再興されないと無理です。かけ離れたことを言っているようですが、補修の材料がありません。材料がなければ職人も育ちません。町家の維持継承は、分業で成り立っているような、様々な職方も含め、地場の産業が回ってこそ可能になるのです」と語ります。

 

建都も、今あるものを生かし、京都の良さと住みやすさが共存する家づくり、まちづくりに貢献してまいります。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。