タイルで遊ぶ、知る、 そして使う

建物の外装や少し前まではお風呂や台所の流しなど、ごく身近にあったタイル。最近は目にすることが少なくなりましたが、民家の外壁に貼ってあるごく普通のタイルも、モザイク模様のおもしろさや色使いに、ものづくり精神や職人さんの姿を垣間見る気がします。
そんなタイルについて、どこで、どのようにしてつくられているか、製造方法や種類、最新の製品など、およそタイルに関することのすべてを知ることができるギャラリーがこのほどリニューアルして新たなスタートを切りました。職人の誇りも遊び心、これからの暮らしにどう生かしていくかなど、産地も含めてタイルのおもしろさと可能性を感じるタイルギャラリー京都は、新鮮なおどろきと楽しさがいっぱいでした。

タイルは焼き物、窯元でつくられる

タイルギャラリー京都
タイルギャラリーは、京都駅から歩いて5分ほど、大通りの喧噪から離れた静かな場所にあります。モダンで周囲になじんだよい雰囲気の建物です。
ギャラリーの中へ一歩入ると、広々としたスペースに、めくるめくタイルの世界が広がっていました。色、形状、質感も様々な本当にたくさんのタイルが、すてきなレイアウトで展示されています。余分なものがなく正味タイルだけで構成されていることがすばらしいと感じました。
タイルギャラリー京都
ギャラリーの運営を任されている篠田朱岐さんに「タイル事始め」のようにていねいに説明していただきました。窯元は愛知県の常滑、岐阜県の美濃、多治見など、もともと陶器の産地であった所に多いなど、始めて知ったけれど、聞けばなるほど思うことが多くあり新鮮でした。
窓側も上手に利用して、各窯元の特徴や得意とする製品、新しい提案などがよくわかるように展示されています。ていねいで楽しい話ぶりからも、展示の工夫からも、タイルへの深い思いが伝わってきます。
タイルギャラリー京都
海外ではタイルの需要が増えているそうですが、費用の点で日本はクロス張りが増えていると聞きました。しかし、耐用年数はタイルのほうが優れているので最終的にみればタイルが高いわけではないのです。それでそれぞれの窯元もキッチンのカウンター部分に使うなど、一部でもタイルを取り入れられ、家の雰囲気に合った使い方を発信しています。
需要が減少して厳しいなかでも、これまで培ってきた技術と先進性をもってがんばっている会社が多いのだと思います。デザイン的にも優れ、分業が多い業界のなかで、うわぐすりも自社でつくるなど新しい歩みを始めている会社もあるそうです。「タイルをもっと知ってもらえば使い道はきっとある」という気持で、新たな行く末を考えているのだなと感じました。
タイルギャラリー京都
また、窯元とギャラリー双方の思いが一致しているからこそ、会場全体が楽しく、明るく感じられるのだとも思いました。
「これをひとつ、ひとつ手作業で作ったのか」「ここまで狂いがなく、きちんと合わられる技術と心入れがすごいな」など、タイルがみずから発信しているように感じます。
展示パネルは黒い鉄板で、マグネット式に自由自在に張り付けられるようになっています。ひとつひとつの、1センチにも満たないタイルにもマグネットが付けてあります。生半可ではとてもできないことです。思いのこもったタイルの芸術に物語を感じます。

源流を大切にしつつ、概念をくつがえす

タイルギャラリー京都タイルギャラリー京都
タイルは四角く平たいもの。その概念を打ち破る形状のタイルも生まれています。インテリアとしてもすてきです。ピアスや掛け時計などの雑貨の分野にも進出し、現代の暮らしにあった食器も生産されています。
もともと食器を作っていた窯元がタイル製造に乗り出した例も多く、マグカップやプレートなどは得意分野です。「手元に置きたいな」と思うものがいろいろあります。余った粘土でつくった「うどん玉」という、お茶目な作品には思わず笑ってしまいました。

海外でもタイルは製造されていますが「きちんと作る」の精度が日本はすぐれているそうです。細かいモザイクタイルを貼りつけた四角のタイルをさらに何枚も寄せてきちんと一枚の絵画にした「錦鯉の図」がありました。
寸分の狂いもなく仕上げた迫力に、ものづくりの精神は健在なのだと感じました。
堅持すること、革新していくなかみ、その両輪がしっかり噛み合っています。

日本のものづくりの未来

タイルギャラリー京都
タイルギャラリー京都は、タイルの施工会社「山陶」が運営母体となり、元タイル職人であり代表取締役の山下暁彦さんが館長を務めています。ギャラリーは新たにレンガの展示スペースを設け「煉瓦の家」の構想がスタートしています。
タイルの源であるレンガは、明治の工業の近代化のなかで全国各地にりっぱなレンガの建物ができ今も残して活用している所もあります。新しく始まる「煉瓦の家」の取り組みは、伝統的な煉瓦のすばらしさとそれを積みあげ構築する職人技の融合です。
タイルギャラリー京都
現在、館内にはスマートブリック工法という新しい工法で施工された外壁の小さな家が建てられていて、実際に打ち合わせなどに利用しています。キャスターで移動も可能ということで、これから在宅での働き方が増えるなかで需要が見込まれます。
また、レンガに曲線をつけて積み上げた展示もされています。四角なレンガに曲線をつけて積むのは相当難しいことなのだそうです。職人魂のなせるわざです。それぞれ違った風合いを見せるレンガにあたたかみを感じます。篠田さんも「これが味ですねえ」と愛おしげに口にされました。
タイルギャラリーでは、ワークショップも行っています。これから多くの人に参加してもらえるプログラムも増やしていくそうです。

タイルギャラリーのロゴマークはタイルの花びらが開き、花がさく明るい未来を示しているように見えます。「タイルと出会い、遊んで、活かす」を掲げた本当の京都のものづくりを知ることができる楽しい場所です。
前回の紙箱に続き、伝統産業だけではない京都のものづくりの源流と進取の精神を感じた取材でした。また京都のみならず、日本の各地に、志をもってものづくりに励む人たちがいることも知りました。
京都を訪れた人、また地元の人もぜひ足を運んでもらいたいと思います。最期は土にかえる煉瓦とタイルを身近に置く暮らしが広がりますように。

 

タイルギャラリー京都
京都市下京区木津屋橋通西洞院東入学芸出版社ビル3階
開館時間 11:00~16:00
開館日 毎週月曜、火曜、木曜日/第2・第4の金曜、土曜日