気分がはずむ帽子、どこかへ出かけたくなるデニムパンツ。そして「こんにちは」といった表情のハチワレねこのイラストもほのぼのとした町家工房に出会いました。
帽子やおとなの普段着を、一点一点ていねいに製作する「ハンサム・ベレット」です。いつもの最寄駅ではなく、手前の駅で降りて見つけました。たたずまいやディスプレーから「きっと楽しいものがある」と感じて訪ねました。やはりそこは、猫と人、人と人がつむぎだす幸せな空間でした。
「こういうのがほしい」思いがかたちに
四条から三条商店街までの大宮通は、老舗の京料理店あり、居酒屋に飲み屋横丁のような路地ありというふうに飲食店が多くありますが、地元の商店街といった渋い落ち着きを感じる通りです。
そこに「ハンサム・ベレット」はあります。ウインドー越しに見える帽子や洋服、「看板娘」のようなトルソーや、ディスプレーに使われているミシンにも味わいを感じます。「たたずまい」という言葉がしっくりしてこの通りの風景をつくっています。
ハンサム・ベレットは布作家のご夫妻がユニットを組んで営む「おとなの普段着」をテーマに、帽子や洋服、その他バッグなどを製作する工房です。
髪に悩みがあったことから、洋裁の技術があったので、自分で作った帽子をかぶっていたところ「それ、いいな。私にも作って」とリクエストされたことが始まりだったそうです。持ち込んだ布や洋服を使ったリメイクやセミオーダーにも応じ、お父さんのジャケットや大好きな布など、それぞれに愛着ある一点が生まれ、たくさんの物語をつむいできました。
以前は工房内でいろいろなタイプの帽子を販売していましたが、今は「はきやすくて、カッコいい」ボトムスが評判を呼び、ネット販売や受注製作が主になっています。ストレッチ機能のあるデニムはめずらしいのですが、長年の付き合いのある仕入れ先から入ります。
ゆったりしたデザインですが「シルエットがきれいでスタイルが良く見える」と好評です。「ストレッチでウエストがゴムなんて、おしゃれじゃない」という大方の思い込みを、うれしいかたちで裏切る定番商品になりました。年配の方に支持されているのかと思いきや、小さなお子さんのいるおかあさんたちにも喜ばれていると聞き「ユニバーサルデザインとは、こういうことなのか」と思いました。
ポケットの位置や大きさ等々、細かいところまで行き届いた丁寧なものづくりで、多くの人が信頼し、またワクワクしながら注文しているのでしょう。生地は「岡山デニム」や国内製造の生地を主に、デザインや雰囲気に合わせて海外のヴィンテージも使います。
このベレー帽が一つの完成形というものや、リバーシブルタイプで何通りにも楽しめるターバンもとてもおしゃれです。
「自分自身がこんなのがほしいな、いいなと思うものを作っています。悩みというものは人それぞれで、他人から見たらどうってことないことかもしれませんが、本人は気になったり辛かったりします。あきらめないでその悩みをときほぐす、おしゃれなアイテムがあれば喜んでもらえます」と話されました。性別や年齢、体形にかかわらず、だれもがおしゃれを楽しめる世の中は、いい世の中だと感じました。
猫がいるから今がある
トレードマークになっていることからも察せられるように、工房の内外に、製品にとあちこちに猫と遭遇します。それが少しもうるさいとか、盛り過ぎを感じさせない、ごく自然に「そこにいる」といったふうです。
お二人とも深い愛情を持って猫と暮らし、仕事をしています。以前、野良猫のおかあさんが「これからこの子たちをどうぞよろしくお願いします」というかのように、仔猫たちを連れてきたことは、ハンサム・ベレットの物語が展開した時とも言えます。野良猫かあさんが連れてきた仔猫から生まれた仔猫の家族を探して奔走したり、保護猫活動にも参加されてきました。猫を通して多くの人とつながりができ、猫との暮らしから、やさしく楽しいものが作り出されています。
以前この京のさんぽ道でご紹介した猫本サロンのある「三条会」の商店街もすぐ近くです。
今はディスプレーに使っているミシンは前の持ち主の方から「ここなら大切にしてくれると思うから」といただいたそうです。「家主さんやご近所さん、三条会のみなさんとは、いいお付き合いをさせていただいてお世話になっています。この棚も、トルソーも、昭和なラジオも気にかけてくださって、いただいたものです」と続けました。
この地に根をおろして14、15年ほどですが、2回も町内会の組長を務め、お地蔵さんなど地域の行事のお世話もされ、すっかり地域の一員です。
工房のキャラクターになっているのは「カイちゃん」です。すてきなイラストは自作だそうです。愛情があふれています。ハンサム・ベレットのアイテムは猫柄であっても、子どもっぽいかわいらしさではなく、理屈ではなく「猫が好きな人、わかっている人が選んだ」となんとなく伝わるすてきな生地です。
猫とともにある暮らしはものづくりの大きな力になっています。お二人は「すべて猫がつないでくれた縁です。今あるのは猫のおかげなのです」と語ります。ホームページやSNSでは、猫のベル、アサ、ソラ、アトム、ハル、テラの日常やモデルとしての活躍ぶりが見られます。みんなでハンサム・ベレットの「家業」を盛り立てています。ゆったりのんびりした空気が漂い、みんなが優しい気持ちと笑顔になれる工房です。ぜひ一度お訪ねください。
ハンサム・ベレット
京都市中京区大宮通六角下る六角大宮町207
営業時間 10:00~17:00頃
定休日 不定休