山城青谷地域 希少な梅で新しい風を

近畿地方は土用に入ってから4日目に、やっと梅雨明けとなりました。この季節の仕事と言えば、6月に漬け込んだ梅の天日干があります。西に木津川が流れる京都府南部、城陽市の青谷(あおだに)地域は、府内一の梅の生産地であり、他ではほとんど生産されていない、香りに気品があり、大粒で肉厚の希少な梅「城州白(じょうしゅうはく)」が特産です。

建都が施工監理をさせていただいた「茶山sweets Halle!地元に愛され1周年」の記事でもご紹介しました「城州白けーき」でご縁ができた青谷梅工房代表の田中昭夫さんにお話を伺いました。

地域活動のつながりから生まれた青谷梅工房


青谷は城陽市の一番南に位置しています。青谷での梅の栽培の歴史は古く、江戸時代には、染物の媒染剤となる烏梅(うばい)をとるために、現在よりはるかに広い梅畑があったそうですから、花咲く時期は、それは見事だったことでしょう。
明治になって、外国から化学染料が輸入されると烏梅の出番はなくなっていきましたが、それにかわって、観梅の地として注目されるようになりました。
明治30年頃、保勝会が結成され、青谷のすばらしさを世に広めました。そして、優れた品種の城州白があったことで、梅の郷青谷は生産地として揺るぎないものとなりました。

青谷梅工房代表の田中昭夫さん

小学校の教師だった田中さんと青谷との出会いは「城陽生き物調査隊」の活動でした。
地元の方の厚意で梅林の中にある土地を貸していただき、子どもたちと一緒に自然観察の活動ができる「くぬぎ村」をつくりました。そのなかで、青谷の自然と、城州白という梅のすばらしさを知ったのです。城州白と青谷地域の盛り上げの一助になればと、梅まつりの期間にあわせて、くぬぎ村梅まつりを開催するなど早くから地域とのつながりをつくってきました。
生き物調査隊の事務所をさがしていたところ、元建具屋さんだった現在の建物を紹介していただくこともでき、梅まつり期間の土日限定でオープンし、また、梅びしおなど加工品の開発、梅林の整備・栽培も引き受けて活動を続けました。しかし、梅林の仕事はとても手がかかり「教師を続けるか、梅を取るか」を決断する時が来ました。そして2011年、元建具屋さんの建物を拠点として「梅工房」をたちあげ、梅干しや加工品の製造販売の事業を本格的に開始しました。
田中さんは「青谷の自然と城州白を守ろうと決意した人とか、よく言われますが、最初から梅のことを考えていたわけではないのです。なりゆきです」と笑い「それでも、こうして振り返ると、ずっと梅とかかわって来たんやなあと思います」と続けました。

建物の元持ち主に感謝を表して当時の道具を展示しています

梅工房は、地域のみなさんが気軽に立ち寄ることができる、コミュニケーションの場として歌声サロンやお茶、映画会など様々に活用されています。教師時代も含めて、たくさんの人とのつながりが生まれ、その信頼関係が大きな力になっています。
田中さんは「みんなと一緒に何かすることが好きなんですね。それと、信頼関係は、やっていることに夢があるかどうか。自分自身が夢を感じるか、です。夢があるからこの事務所の修繕も、くぬぎ村の整備も、大変なことでしたが、みんなで楽しくどんどんできました」と語りました。それぞれの夢が自分自身を成長させ、人や地域を元気にします。

茶山sweets Halle、一乗寺ブリュワリーとの出会い

楕円に近い形が特徴の城州白

梅酒ブームの後押しもあり、地元酒造会社の城州白の梅酒は広く知られるようになりました。しかしその後の不況や梅酒ブームが一段落したことなどの影響で、城州白も需要が減少してしまいました。田中さんは、せっかく農家のみなさんが手をかけて育てた城州白が収穫されず、地に落ちているのは見るに忍びないと、買い支えようと頑張りましたが、すべて買い取るには梅工房だけでは資金が足りません。
買ってもらえない状況が起きれば、農家は栽培をあきらめたり、後継者になろうと考えている若い人も意欲がそがれてしまいます。そこで「青谷に梅で元気を取りもどしたい」をテーマにクラウドファンディングに取り組み、目標額60万円を超える資金が集まりました。青谷が誇る城州白の良さをまず青梅で知ってもらい、外への出口をつくろうと「いつも頭の中は梅のことでいっぱい」の田中さんです。

そんななかで茶山Halleとの出会いがありました。蜜漬けした城州白が丸ごと入った焼き菓子は、爽やかな酸味と果物のようなやわらかな甘味が生地と良く調和して、とてもよくできています。
梅工房では、お手製のポスターを張って店内はもちろん、梅まつりの時も販売しました。「青谷の名産が入っていて話題にできるし、ちょっとした手みやげにちょうどいい」と、好評だったそうです。

梅を使ったクラフトビール城州白エール

一乗寺ブリュワリーにお願いし、一年かけて完成したクラフトビール「城州白エール」も快調です。華やかな柑橘の香りと、すっきりした飲みくちながら深い味が特長のビールです。今のところ生ビールのみで生産量も少ないので、置いてあるお店は限られます。せっかく城州白のビールができたのに、地元で飲めないなんてと、毎月第3土曜日夕方5時から10時まで開く「梅酒バー 梅月夜」での提供を始めました。

毎月1度の梅酒バーの料理作りとメニューを担当

店内に低くジャズが流れ、夕闇が徐々に濃くなります。和紙の灯りや、木のぬくもりを感じるテーブルや椅子。いい雰囲気のおとなのくつろぎの時間です。
予約されたグループが楽しそうに杯を重ねています。看板商品の梅や、仲間が作る無農薬の野菜の持ち味を生かしたおつまみも絶品で、食べる楽しさもしっかり味わえます。厨房を取り仕切るお二人の本当に楽しそうに立ち働く姿が印象的でした。

本当に美味しい梅干作りを柱に据え、もっと地域の人がつながる場に


去年、今年と梅は不作が続きました。天候はどうすることもできませんが、基本的には城州白の可能性を広げ、安定して栽培してもらえるようにすることです。
そのためには、一生懸命なものづくりをする作り手同士、また異業種の分野を結び付けることも重要な仕事です。そのなかで、ぶれずに本当に美味しい梅干しづくりにしっかり腰を据えることを一番大事にしています。

梅工房の梅畑も年々広がっています。猛暑の日、朝から草刈をしていたみなさんが戻ってきました。ものすごい汗です。草を刈り、馬糞と木くずをまぜ合わせた肥料を施す仕事です。馬糞は乗馬体験をしている馬場から運んでもらいます。大変な量の廃棄物になるところを循環させ、質の良い肥料にします。良い城州白を作るための仕事に終点はないようです。
田中さんは本当に美味しい梅干づくりと同時に、梅工房の事業や活動に、もっと地域の参加が必要だと思っています。まだまだ地域みんなのものになっていないと感じ、どうしたらみんなのものになるのか考えをめぐらしています。
青谷の梅や、梅林の続く自然をみんなでつくり、地元の自慢、誇りにしていきたいという夢です。地域のコミュニティーセンターでの特産品講座や小学校で、講師として青谷の先人の努力や文化の香りのする地域であること、梅の健康効果などについて話をして、地元の人に愛着を持ってもらうように努めています。

田中さんが梅干作りについて話す時「紫蘇を入れたとたん、さあっと色が変わって、それはそれはきれいな色になるんですよ」と、本当にうれしそうです。
梅工房を始めた頃、梅びしおや梅ジャムを売り歩き、高齢世帯多い地域へ野菜を売りに行ったり紹介されて百貨店の売り場に立った日のこと。いずれも全然売れなかったこと。
でも梅は、きちんと手入れをしたらそれに応えるように収量が増えたこと。夢の中には、こんな経験も詰まっています。
いつも忙しいけれど、一年中で今が一番落ち着いてものが考えられる時だそうです。これからの梅工房がとても楽しみです。
建都も、それぞれの地域のみなさんがつながり、地域の素晴らしさを実感し新しい魅力を付け加えていくことができますように、まちづくり、いえづくりの場でお役に立てるよういっそう研鑽を積んでまいります。

 

青谷梅工房
城陽市中出垣内73-5 JR山城青谷駅徒歩5分
営業時間 9:00~16:00
定休日 日曜日・祝日