ドロップ缶のように 楽しむ喫茶店

嵐電の路面電車がゆるゆる走る通りから、少し脇へ行ったところに「入ってみたい」と引き付けられる喫茶店があります。店内はヴィンテージのアクセサリーや雑貨が風景のように配置され、独特の世界観をつくり出しています。古き良き時代のきらめきにあふれながら、始めて入っても、よそよそしさを感じさせない心やすさがあります。
おいしいコーヒーと、年代を経たかわいくておしゃれで美しいものの心地よさにふれ、楽しんでもらいたいという経営するお二人の思いが、すみずみまでいきわたっています。
「入ってみたい」が「また行きたい」になるこのお店は「喫茶とヴィンテージ雑貨 サイドロップ」です。

サイドロップ時間を楽しむ

サイドロップス外観
看板を見た時、古き良き時代のアメリカの雰囲気を感じた「サイドロップ」の名前。地名であり嵐電と阪急の駅の名前「西院(さいいん)のさい」と「いろいろな味をつめ込んだドロップ缶のようなお店にしたい」という思いを合わせたと聞き、そのユーモアのあるセンスに拍手する思いでした。
「カタカナは古びないし、簡単に読めるでしょ。そうやって親しんでもらって地域のみんなの憩いの場にしたいと思ったから」と、名付け親のケイコさんは由来を話してくれました。
サイドロップスの看板猫、あめちゃん
開店して今年で9年を迎え、おいしいコーヒーとなじみのある軽食と喫茶メニューで、この地域の得難い喫茶店として月日を重ねています。
開店した年に生後3か月で家族に迎えた男の子ねこの名前も「ドロップは飴だからアメちゃんにしよう。子どもにも覚えてもらいやすいし」と決まりました。アメちゃんはお店へ出れば大人気ですが、テーブルの上へ乗らず、食べ物に手を出さず、お客さんを威嚇せずと、お行儀は完璧です。カメラ目線で撮影にも応じ、取材は何回も受けています。外へは出ませんが、表を通る人や鳩を眺めるのがだいすきで、子ども達にもかわいがられています。
アメちゃんはサイドロップの優秀なスタッフとしての自覚を持ってみんなと接しているのです。でもアメちゃんの出勤はアメちゃんに任せていますので、残念ながら会えないこともあります。その時は次の出会いを楽しみにします。
サイドロップスの店内
ケイコさんとヒロコさんの二人が大切にしていることは、何よりもお客さんにおいしいコーヒーと食事をゆっくり楽しんでもらうことです。サイドロップの居心地のよさは、こうしたお二人のきちんとした考えや毎日の仕事にあると思います。でも、それを当たり前のこととしてことさら強調したり表に出したりしないからこそ感じる、ゆとりなのだと思います。今日もお客さんそれぞれの、自由なサイドロップの時間が流れています。

ヴィンテージで統一された空間

サイドロップスのディスプレイ
サイドロップの大きな特徴は喫茶店であると同時に「道具商」の申請許可を受けて、古い道具やアクセサリー、服飾・雑貨も販売していることです。店内の一段上がったスペースには3つの異なる雰囲気の席と、ため息のでるようなすばらしいヴィンテージのアクセサリーや雑貨がところを得て、静かに輝きを放っています。それぞれのコーナーは独立していながら統一感があり、また不思議と親しい感じをかもし出しています。
サイドロップスの雑貨
仕入れやディスプレーはケイコさん、アクセサリーや洋服、小物のコーディネートはヒロコさんが担当しています。並んでいるアイテムは幅広く、洋の東西にかかわらず「すきなもの、気持ちにかなうもの」を連れて帰って来たような印象で、最初からそこにあったかのようにおさまっています。
そして配置は常に少しずつ変わっています。コロナが続き、商品が入らない状況が続くなか「少ないアイテムで、いかにすてきに新鮮な空間をつくるかがポイント」とケイコさんは語ります。
サイドロップスの帯留
日本の職人技と美意識にほれぼれする帯留め、フランスの繊細なレース、オードリー・ヘプバーンの映画を思い浮かべるアメリカのアクセサリー、雰囲気のあるグラス、日本の洋食器の草分けオールド・ノリタケのカップ&ソーサ―等々、見ているだけでも心が満たされます。若い女性のお客さんが多く「今は買えへんけど、すてきなアクセサリーを見ていると気分が晴れる」「ここで買ったアクセサリーはとても気に入っていて、気持ちが落ち着く。お守りみたいに毎日つけている」と言ってくれる人など様々です。ヒロコさんは「みなさん、このディスプレーを風景として楽しんでくれている」と感じています。
サイドロップのパフェ
コーヒーカップやグラス、ケーキ皿などお店で使っている食器はすべてヴィンテージものです。実際に使って、その良さを知ってほしいと思うし、このサイドロップのお店の雰囲気に合う食器は自然とヴィンテージになったそうです。
「本わさびとクリームチーのスパゲティ」は年代物のノリタケのスープ皿が使われていました。パフェは種類によってグラスを変えているそうです。それも楽しみになります。サイドロップには、あこがれや夢、暮らしを楽しむヒントが詰まっています。

純喫茶サイドロップ末永く

サイドロップス店内
サイドロップのコーヒーは専門店から特別にオリジナルをブレンドしたもらった豆を使い、ていねいに淹れています。お店の外観や店内の雰囲気から「おしゃれ系のカフェ」と思って入ったお客さんから「コーヒーがおいしい店とは思わなかったので、びっくりした」と言われることがあるそうです。
サイドロップスの店内
今「昭和」「純喫茶」が若い世代、ことに女性に注目されています。「おばあちゃんやおかあさんが着ていた洋服はすごくおしゃれ」と昭和ファッションを新鮮に感じて楽しんでいる人も多く、古着屋さんにも若い人が集まっています。
サイドロップでは、すべて厳しく選ばれた状態のよいもののみを置いています。形が洗いにくい食器など、古いものは形や素材など扱いに気をつけないとならないけれど「その不便さを楽しむ」ということもあると話されました。
ケイコさんもヒロコさんも喫茶店や道具商の経験がなかったけれど、今までやったことのない新しいことをやりたいと、サイドロップを始めたというのですから驚きです。それが実現したのは「やりたいと思う執念」と答えました。その執念がつくり出した空間に、ご近所さん、静かに本を読みたい人、仕事帰りの常連さん、甘いもの好きの男性、今後喫茶店や古くてよいものの支え手となる力強い層、若い女性など多様な人々がやって来ます。
嵐電の踏切の信号の音、近所の銭湯、身近なまちにふさわしい喫茶店サイドロップ末永くと願っています。

 

サイドロップ
京都市中京区壬生西土居ノ内町22
営業時間 10:00~20:00
定休日 毎週火曜日、第1日曜日