パン好き京都人に 愛されています

総務省の2016年度家計調査によるパンの消費量は、京都市が1位。「京都人のパン好き」が、数字からも見てとれます。いろいろな個性を持つおいしいパン屋さんがあちこちにあることも、パン好きを増やしているのかもしれません。
和の殿堂でありながら、琵琶湖疏水を造って水力発電を起こし、チンチン電車を全国にさきがけて走らせるなど、進取の気風に富む京都は、ハイカラな食文化を取り入れることにも積極的だったようです。

学生の街、左京区で地元の人に愛されるパン屋さん「HOLYLAND(ホーリーランド)」は、2月にご紹介した「茶山sweets Halle(ちゃやまスイーツはれ)と同じく、建都と長いお付合いのある、社会福祉法人修光学園の就労支援施設「飛鳥井ワークセンター」が運営する専用店舗です。
丹後産のジャージー牛バターと天然塩を使用した食パン、その名も「京の旨(きょうのうまみ)」が話題となり、おいしいパン屋さんとして注目を集めています。

利用者さんは、ベテランパン職人


京都大学の吉田キャンパスのある百万遍界隈は、喫茶店や書店、古書店、定食屋、銭湯が並んでいたまちの顔もだいぶ変わりましたが、それでも学生街の自由な雰囲気は失われていません。
百万遍の交差点から北へ400メートルほど行くと、スーパーマーケットの1階に、全面ガラス張りのパン屋さんHOLYLANDがあります。道を歩いていてもガラス越しに、焼きたてパンのいい匂いが漂ってくるような気がします。ここで作られるパンは80~90種類。店頭には常時60~70種類のパンが並びます。

ハード系のパンは、ビールやワインにも
デニッシュ系のパンも新作登場
コロッケも工房で作ります

運営する飛鳥井ワークセンターは、全国でも例を見ないと言われるスーパーマーケットとの合築です。2~3階にパン工房とその他の作業場、事務所、1階に専用店舗のHOLYLANDとなっています。センターが開設された1994年から製パン事業に取り組み、現在は15人の利用者さんと5人のスタッフが担当しています。


毎日、生地から作っているHOLYLANDでは、粉、イースト菌、塩、水の調合、捏ね、発酵、成形、必要に応じてトッピング、袋詰め、ラベル貼りなど、焼き上がって店頭に並ぶまでにたくさんの工程があります。一人一人の特性に合った、得意な部分を担当してもらっていますが、暗黙の了解のうちに自然と役割が決まり、それぞれが力を発揮し責任を持って仕事をしています。9割が10年以上のパン作りの経験があり、だれか一人でも休むと「あ、この工程困ったな」ということになる、ベテラン職人さん達です。
1階店舗での接客や、保育所、高齢者施設など、お得意さんへの納品やイベントでの販売に同行した時、自分たちの作ったパンが売れていく様子を目のあたりにして、みんなものづくりの喜びを実感し、ものづくり魂を熱くしています。

京都の旨みを集めた食パン誕生


試作を重ねてきた新しい食パン「京の旨」が完成し、昨年11月、支援事業所対象に行われた、パンのコンテスト、食パン部門でグランプリを受賞しました。ともに京都府北部の、久美浜で育ったジャージー牛の生乳から作られたバターと、網野町で作られる天然塩が持つ素材の良さを最大限に生かす、湯種製法の米粉を生地に混ぜて焼きあげた、香りがよくふわふわしっとり、深い味わいが特長です。
「1斤660円」という、食パンとしてはかなり高い商品になりましたが「おいしい」という実感がまさり、毎回完売の人気ぶりです。お店に見えたお客様も「自分へのごほうび」「ちょっといいことがあったから」など、パンのおいしさとともに、心の豊かさも味わっているようでした。

お話を伺った今井浩貴さん(右端)とスタッフのみなさん

この京の旨は、スタッフの今井浩貴さんが現地を見学した時「バターや塩を本当に丁寧に心を込めて作っておられるところを見て、ぜひこの材料を使って、もっとおいしいパンを届けたい」と思ったことがきっかけでした。
「グランプリを受賞した報告とお礼に生産者の方に京の旨を送ったところ、一緒になって喜んでくれて、それが本当にうれしかったです」と今井さんは語ります。そして「製パン課は、生産者さんをはじめ、本当に人に恵まれています。だからこそ、しっかり応えていきたい」と続けました。ここからさらに、おいしいパン作りへの道が始まります。

地域に根付き、地域で力を発揮する


京の旨の記事が新聞に掲載されると、問い合わせの電話も多く「読んだよ」と声をかけてくれるなど大きな反響がありました。自分達の作ったパンが評判となり「おいしいよ」「ありがとう」などお客様に喜んでもらえることは、ものづくりの醍醐味です。飛鳥井ワークセンターは、15人の利用者さんと5人のスタッフが、本気でパンと向き合い「一人一人がパン職人」の気概を持って働き、地域とつながる大切な場所です。
建都は保守、修理工事や、利用者さんの状況に応じた間仕切り新設工事、また日々の作業改善に伴うリフォーム工事などをさせていただいています。これからも、地域を豊かに住みやすく、働きやすくするためにみなさんと一緒に歩んでいきたいと思っております。

桜が彩る 京都の町並み

今年の桜は、ことのほか早い開花となり、京都のソメイヨシノは少し花びらが舞い始めています。嵐山、清水、平安神宮等々、有名どころの桜の名所は数々あり、いずれも「さすが」と思わせる見事な風景をつくり出しています。
また、並木道や公園、学校など身近なところで私たちを楽しませてくれるのも、桜の良いところです。桜となじむ京都の景観のすばらしさを改めて感じます。

木造の教会の向かいは、桜の平野神社


平野神社は、平安遷都と同時に始まる来歴のある由緒ある神社ですが、京都の五つの花街の中で一番古くからある「上七軒(かみしちけん)」に近く、どことなく艶やかな雰囲気を感じます。貴族の氏神様でもあり、桜は生命力を高める象徴として平安時代から植えられたということです。

平野神社に稀少種の桜が多いのは、公家たちが、家のしるべとなる桜を奉納したことから、とされています。名前も「御衣黄」「手弱女(たおやめ)」「平野突羽根(ひらのつくばね)」「胡蝶」など、雅やかです。貴族が催していた観桜の宴は、江戸時代になって、苑内が庶民にも開放され「平野の夜桜」として、都を代表する桜の名所になりました。60種400本の桜がある境内は「桜の杜」のようです。

今年も昼夜に関わらず、たくさんの人が繰り出しています。屋台もあり、昼間から「おでんで一杯」を楽しんでいる人がいるのも、お花見らしい平和な風景です。ソメイヨシノが終わっても、次々と咲く古来種を楽しめます。

平野神社の斜め向かい側に、建都が施工した「西都教会」が建っています。設計は「まちなかこだわり住宅」も手掛けていただいた魚谷繁礼建築研究所にお願いし、木造とは思えないスケールの、シンプルでモダンな教会が完成しました。西大路通りに面して、朱の大鳥居のある1200年余に渡って鎮座する神社と、シンプルモダンな教会が調和して、付近の景観を形づくっています。これも、千二百年の都でありながら、進取の精神に富む京都らしさだと感じます。

哲学の道の桜を植えた日本画家


桜の花を映してゆっくり流れる疏水。時折り、花びらが舞い落ちる様子は本当に美しく、佇んで見入ってしまいます。銀閣寺近くから南禅寺まで、疏水に沿って続く「哲学の道」は、最高の桜の道です。

日本画家、橋本関雪が30年をかけて完成させた庭園と建物「白沙村荘(はくさそんそう)」

あまり知られていませんが、この桜は、日本画家 橋本関雪ゆかりの桜です。大正から昭和にかけて活躍し、日本画壇に名を遺した関雪ですが、経済的には大変だったこともあり「貧しい時によくしてくれた、京都の人に楽しんでもらえたら」と関雪の妻、ヨネさんの提案で、感謝の気持ちを込めて植えられたそうです。ソメイヨシノの樹命は60年くらいで、大正11年(1922)、関雪39歳の時に植えられた桜は寿命を全うしたものが多くありますが、若木に植え替えられ、景観は保たれています。間雪とヨネの感謝の心で始まった桜並木は、哲学の道を四季折々に彩る景観に欠かすことのできないものとなっています。

昭和の初めのモダンな住宅街と桜守


昭和の初めに開発された、モダンな郊外型住宅のさきがけとなった、阪急電車西向日駅近くの住宅街の桜並木も満開になり、散歩がてらにカメラやスマートフォンで撮影する姿をよく見かけます。この桜は、「新しい住宅街にふさわしい街路樹」としてソメイヨシノが植樹されました。
街区の中央にあるロータリーと桜並木は、このモダンで文化的なまちの景観を象徴するものとなり、地元のみなさんに愛され、今もその雰囲気を保っています。

また、この向日市に、笹部新太郎が私財を投じ、心血を注いでつくりあげた桜の園があったことを知る人はまれです。日本の桜の8割はソメイヨシノと言われていますが、笹部新太郎は、ソメイヨシノ以外にも、日本には多様な桜があると、日本固有の桜を守るため、適地と見こんだ向日神社に続く森に苗木を植え、日本一の桜の園をつくりました。
しかし、名神高速道路の建設用の土を採取するため、手放すことを要求され、広大な種苗園は跡形もなく消えてしまいました。どんなにか無念だったことでしょう。今もその痕跡は残っていますが「笹部さんの園をよみがえらせよう」と、地元のボランティアのみなさんが、下草を刈り、固有種の桜を育てています。

 

時代の波が押し寄せるなかで、先人の残したものを受け継いでいくことは大変なことです。それでも、その志を継いでいこうと奮闘するみなさんによって守られています。
景観は長年にわたって形づくられるものであり、京都における町並みや歴史的景観も、利便性や経済活動の影響はまぬがれません。そのなかで歴史や文化に培われた景観は、その都市や地域を支える重要な要素としてとらえ、今の時代に生かしながら、伝えていく知恵や合意形成が大切であると考えます。建都も、京都のまちにふさわしく、使う人、住む人にとって幸せな家・建物をつくってまいります。

 

平野神社  京都市北区平野宮本町1

白沙村荘 橋本関雪記念館  京都市左京区浄土寺石橋町37

桜の園  京都府向日市向日町北山65

映画のまち 京都の喫茶店

日本映画発祥の地、京都は、映画史に残る数々の名作が生まれ、撮影で京都を訪れる俳優のそれぞれの行きつけの喫茶店もたくさんありました。座る場所は決まっていた、必ず注文したメニューがあるなど、興味をそそられるエピソードもいろいろあるようです。
京都のまちに似合うもの。映画と喫茶店。ともに京都の文化の香りがします。思いがけないつながりのある、すてきな喫茶店を見つけました。

カフェ・セバ―グで映画を語ろう


二条駅に近い、ひっそりした通りに、センスの良い看板が見えました。行ってみると、やはりすてきな喫茶店でした。店内は、映画のポスターやパンフレット、ビンテージのカップやグラスもセンス良く配置され、オーナーの感性が伝わってきます。一画、一画が映画の場面でもあるかのような雰囲気があります。

その名も“カフェ・セバ―グ”ゴダ―ル監督の「勝手にしやがれ」で、一躍国際的なスターとなった女優、ジーン・セバ―グです。フランソワ―ズサガン原作の「悲しみよこんにちは」でセシル役を演じ、セシールカットと呼ばれたそのベリーショートのヘアスタイルが話題となりました。懐かしいと思われる人もけっこういるのではないでしょうか。

店主の野口研二さんは、飲食ベンチャー企業で、店舗管理やメニューの開発、企画などに携わった後、コーヒー豆専門店で働きました。入社6年後に、閉めることになった現在の店舗を借り受け改装して、昨年1月にセバーグをオープンしました。
開店するにあたって、近所の人やおなじみさんが毎日通って来る、少し前までの喫茶店のスタイルはもう無理だろう、でもここでしかない、他にはない店にしないとだめだと思ったそうです。
ご自身が、映画が大好きで、ポスターやパンフレットなら、かなりのコレクションがあることから、日本に唯一の映画に特化した喫茶店の誕生となりました。

3種類ある販売用のコーヒー豆は、ブレンドのタイプによって、そのイメージの女優の名前が付いています。スカーレットブレンド、セバ―グブレンド、ケイトブレンド。映画愛にあふれています。
野口さんはお客様に「私の生涯 ベスト映画20」というアンケートを書いてもらい、それをパソコンに打ち込んでプリントして読んでもらっています。映画を見て、自分の中にだけあった思いが、人と話したりアンケートを読んで「ああ、そういう見方もあったのか、こんふうに感じたのか」など、また映画を振り返ることができます。20代前半から70代後半まで幅広い年代の人たちが、自由に映画を語ることができ、それでいて押しつけがましさがなく、「最近映画見てないな」という人も、気づまりな思いをせずにゆっくり、楽しく過ごせる得難い場所。カフェ・セバ―グは、そんな喫茶店です。

パン焼きから始まるカフェの朝


朝8時。店内にほんのり甘い香りが漂っています。トーストに使うパンの焼き上がりです。今日は、ゆで卵モーニングセットに、軽やかなスカーレットブレンドをお願いしました。
パンは少し時間をおいて、ちょっと生地がしまったほうがおいしいそうですが、焼き立てパンの香りと味は、やはり幸せな朝の気分にしてくれます。

セバーグでは、トースト用のパンと焼き菓子は自家製です。店主の野口さんは、パン焼き職人、パティシエ、ウェイター、コーヒー専門店のオーナーと、場面場面でさっと転身して、一人で切り盛りしています。忙しい時はキリキリしてしまいそうですが、そんな雰囲気は微塵もありません。「映画好きが高じて」このお店を開いた、野口さんのお人柄です。

映画好きの輪と建都とのご縁


カフェ・セバーグでは、映画にまつわる古書籍も置いていて、購入することもできます。なかなか興味深い本が並び、映画に特化したカフェをさらに充実させています。
これは、ページをめくる紙の本の楽しさを大切にし、古書という舞台へ下げられた本も、もう一度日の目を見させてあげようと、独自の選定眼と感性の品揃えで店主の世界観が広がる、レティシア書房から預かっている書籍です。レティシア書房のご主人は、選んだ書籍を自ら運び込んでくれた後、コーヒーを飲みながら、野口さんと映画談議をするのが定番ということでした。
レティシア書房さんの建物は、レティシアさんと話し合いを重ねて、建都が建てさせていただきました。以降、とても良いおつき合いが続いています。
レティシア書房のご主人と野口さんは映画が取り持つ仲で、古いお付合いと伺い、人のつながりを改めて感じました。
カフェ・セバーグは、5月までの期間限定で、映画館の入場券の半券で、飲食料金が割引きになるという、企画を実施しています。京都、大阪、神戸の11館の、どこの映画館でもOKということです。
これからも多くの人が、人生を豊かにしてくれる映画で、つながっていくことでしょう。最後は「君の瞳に乾杯」みたいな、名せりふで決めたいのですが、残念、浮かんできません。

 

カフェ・セバーグ
京都市中京区西ノ京池ノ内町20−12 ルーツ神泉苑1階
営業時間 8:00~19:00(LO18:30)
定休日 月曜日

はんなり 京都のおひな様

梅は見頃、そろそろ桃や桜の花だよりも聞かれる季節です。
桃の節句をお祝いするおひな様が飾られたお家には、華やいだ雰囲気が漂います。


町家のほの明るい光に、おっとりと気品のあるおひな様や、すべてが小さく愛らしいお道具が浮かび上がっています。女の子のすこやかな成長と幸せを願う、ひな祭りの福を、おすそ分けしていただきました。

ひな段にはこんなお道具も

1月に「京町家の断熱ケアリフォーム」でご紹介させていただいた、京都のまち中に建つ町家にお住まいのお客様は、掛け軸や豪華な打掛も飾り、個人のお宅とは思えない、すばらしい桃の節句のしつらいをされています。


雅な屏風が立てまわされた、段飾りのおひな様が二対並び、素朴な愛らしさの土人形や木目込みの立雛も付き従うように飾られ、ほのぼのとした華やぎと明るさに満ちています。目を引くのは、一番下の段に長持ちやたんすと一緒に飾られた白木の通り庭(お勝手)のミニチュアです。井戸や流し、かまど、ざるやおひつ、すり鉢等々がきちんと納まっているのです。これは、大正期頃から始まった京阪神にのみ見られるものなのだそうです。


雲の上の殿上人のお内裏様に、こんなにも庶民的で、女性の日々の暮らしと結びついた一式を飾ることを、いったい誰が思いついたのか、すてきな発想をした人がいたものです。しかも、折り畳み式になっていて、四角の箱として仕舞うことができ、箱を開けば「お勝手再現」となります。「すぐれもの」などという言葉では足りない、発想の豊かさと技です。職人さんも楽しみながら、心を込めて作ったんかな、などと想像します。
そして、さらなる驚きは、このミニチュアお勝手元の二体のうち一体は、購入されたものをお手本にして、お母様がつくられたということです。実際に見ても、どちらがどちらとも判別しにくい出来ばえです。技術はもちろんのこと「買わずに自分でつくってみよ」と思って事に向かう実行力に敬服します。

豊かさを生む、ていねいな暮らし

ミニチュアお勝手元の製作者であるお母様は、日頃から住まいの町家を一生懸命守って来られました。襖の小さなほころびは、花形にきれいに切り抜いた紙を張って繕い、お庭も手入れされ、今あるものを大切に、とてもていねいに暮らしておられます。

生活様式の変化もあり、季節に合わせてしつらいを変えるお家も少なくなっています。一年に一度、おひな様にお出ましいただくのも大変なお手間入りです。
「そう言えば、最近おひなさん飾ったことないわ」「飾るのも大変やけど、きちんと仕舞うのはその何倍も面倒」という声も聞きます。
それをいとわず、このようにおひな様を飾ることができるのは、普段から毎日をていねいに暮らしておられる、その積み重ねなのだと思います。日々のちょっとしたことを工夫し、楽しむ。その厚みなのだと感じます。
おひな様の一式を、今は娘さんが管理保管されています。様々な思い出とともに、お母様の暮らしぶりも受け継がれたのではないでしょうか。
京都の豊かさ、奥の深さはこうして育まれてきたという思いを深くしました。

西陣のお酢屋さんのおひな様


茶道の両千家に近く、昔から名水の地として知られる西陣の一角に、京都市の歴史的意匠建造物に指定されている、糸屋格子が美しい町家があります。創業百八十余年、昔からの製法を守る「林孝太郎造酢」です。代々伝わる貴重なおひな様を毎年期間限定で公開されています。


ひときわ気品高く、典雅な雰囲気をまとわれた一対のおひな様には、一緒に収められていた古い伝来書により、江戸末期に在位された孝明天王から林家が賜ったものであることがわかったそうです。また、代々の当主が茶の湯をたしなみ、趣味人であったことから古いお人形を蒐集されて市松人形や、大変珍しい琴を弾く江戸時代のお人形なども一緒に展示されています。保存状態も大変よく、縁あって林家にある時代を経たお人形を多くの方に見てもらえたらと、公開されています。(今年は4月3日火曜日まで)

孝明天皇から賜ったおひな様は「引き目鉤鼻」その通りのお顔をされていて、展示されている大正、昭和のおひな様とも違います。現代はまつ毛が長く、目も大きくぱっちり。時代とともに変わる様子がわかります。
現当主七代目の林孝樹さんは「この伝統的な建物や古いものを残し、伝えていくことも京都の文化であり、大切なことと考えています」と言われました。旧家の奥深く仕舞われていた由緒あるおひな様と巡り合うことができるのも京都に住む幸せです。
建都も、住まいを通して、京都の文化をつないでいくお手伝いをさせて頂けるよう、がんばってまいります。

 

(有)林孝太郎造酢
京都市上京区新町通寺之内上ル東入道正町455
営業時間 9:00〜17:00
休業日 第2、第4土曜日・日曜祝祭日

京都府内産木材を活用した 洋菓子店

1月27日、左京区にすてきなお菓子屋さん「茶山 sweets Halle(ちゃやまスイーツはれ)」がオープンしました。
建都と長いお付合いのある社会福祉法人様の就労支援施設が運営するお店で、今回の工事も設計監理でかかわらせていただきました。府内産の木材をふんだんに使った店内は、素材にこだわり一つ一つていねいに手作りするお菓子と調和して、あたたかみのある雰囲気をかもしだしています。開店当初から、ご近所の方に次々とご来店いただき、上々の船出となりました。念願の直売店に、みんなの夢がふくらみます。

府内産の素材を使った親しみのあるおいしさ

「叡電」(えいでん)と呼ばれる叡山電鉄の茶山駅のすぐ近く、鮮やかな青い屋根の建物が「茶山 sweets Halle」です。

運営する社会福祉法人修光学園は、20年以上前から洋菓子作りに取組んできた実績があります。これまでは委託販売中心でしたが、昨年、別の法人から事業と建物を受け継ぎ、大幅な改修をして、1階に念願の直売店オープンの運びとなりました。

店頭にはクッキーやパウンドケーキなどの焼菓子を中心に、約30種類がラインナップされています。今回新設した専用のオーブンで焼き上げる本格的なバウムクーヘンは、早くも人気商品となっています。


また「密玉」(みつたま)と名付けられたマドレーヌは、丹波の赤たまご、美山のとちの蜂蜜、国産きび糖、厳選された発酵バターにアーモンドパウダー、そして味のまとめ役として丹後夕日が浦の塩を素材としています。2016年には「スウィーツ甲子園京都予選会・ほっとはあと京の彩グランプリに選ばれた折り紙付きのマドレーヌです。また、丹波の赤たまごで作った濃厚なプリン、口どけのよいふんわりした米粉ロールケーキと、生菓子にも力を入れています。いずれも素材の良さを素直に生かした、まじりけのないおいしさです。

商品開発や8名の利用者さんの指導、製造管理や材料調達まで柱となっているのが、8年間洋菓子店でパティシエとしての経験を積んだ職員の深田さんです。
ロールケーキに使っている米粉は、深田さんがそのくちどけの良さに惚れ込んだ、府内の他の社会福祉法人で加工されているものを入れています。こだわりの原材料とみんなのチームワークで「ほっとする、いつものおいしさ」を届けています。

茶山をお菓子で元気にしたい!

オープン前にはご近所へごあいさつまわりをし、告知のチラシも配布しました。うれしいことに、徒歩や自転車で10分くらいという、ご近所の方にたくさん来ていただいています。

このことは「子どもでも気軽に買いに行ける、地域に開かれたお店」のコンセプトを掲げるHalleにとって、とてもうれしいことです。京都府内産、国内産の原材料を厳選することは価格とのせめぎ合いもあります。様々な工夫と努力で「子どももお小遣いで買える値段」をキープしています。「はれの日に彩りを添えられるように」「食べて晴れ晴れした気持ちになるように」いろいろな想いを込めたお店です。お菓子をきっかけにして地域とつながり、たくさんの人が集まって、楽しいことやおもしろいことに係わり、その輪の中に障がいを持った人たちも、当然のように自然といることができるようにという、願いが込められた大切な場所なのです。

店舗づくりにかかわった建都の思い


「お店は無垢の木材を生かした内装にしたい」とのご希望で、京都府の「公募型木のまちづくり推進事業」を申請され、補助対象事業に認定されました。
お菓子のお店の清潔感、やさしさやおいしさ、自然を感じることができ、働きやすい環境をと、何回も話し合いを積み重ねてきました。工務店、株式会社小寺工業さんの誠実なお仕事で、ご希望にかなう、京都府内産の木をふんだんに使ったすてきなお店が完成しました。
ガラス張りの開放的な厨房は働く姿が見え、また利用者さんも、自分たちが作ったお菓子を手にするお客様が見えることで、モチベーションも上がるそうです。身だしなみもしっかりチェックしているという作業中のみなさんからは、生き生きした、楽しい気分が伝わってきました。
お客様のご希望を具体化するには、信頼関係が本当に大切だと、今また、改めて感じています。18年前に障がいのあるみなさんのグループホームの内装をさせていただいた時からの長いお付き合いに感謝しております。
茶山 sweets Halleが、働く喜びにあふれ、お菓子を通じて地域のみなさんとつながり、すてきな笑顔がたくさん生まれるお店になるよう願ってやみません。

 

茶山 sweets Halle
京都市左京区田中北春菜町14-1
営業時間 [火~金]10:30~18:00 [土・祝]10:30~17:00
定休日 日曜日、月曜日、第1・3・5土曜日

一軒の家のように リノベーション

今回は全国で唯一の「恵方社」がある神泉苑のほど近くで、建都が手がけたリノベーション物件をご紹介します。

神泉苑にある、歳徳神を祀る恵方社

「京の底冷え」の本領発揮といった様相の今年の冬。もうすぐ節分、暦は立春となりますが、まだまだ春は名のみのようです。
そして必ず話題になるのが「今年の恵方」ですね。恵方巻きの宣伝になっているかのようですが、これは陰陽道によって決定される、歴とした祀りごとです。
陰陽道の福の神を「歳徳神」(としとくじん)と言い、恵方はその年に歳徳神のいる方向、つまり幸運の方向ということになります。全国で唯一、歳徳神をお祀りする恵方社のあるのが神泉苑です。
今回ご紹介するマンションから歩いて3~4分というご近所です。毎年大晦日の夜、ご住職が祠を持ち上げ、新年の恵方へ「恵方廻し」されます。今年の恵方は「南南東」です。
神泉苑は平安時代の遺構でもあり神仏習合の寺院で、弘法大師の雨乞い説話や、祇園祭発祥の地としても長い歴史にその名をとどめています。今年の節分はそんなことに思いをはせてみるのもいいかもしれません。


最近、関心が高くなり、建都も多く手掛けているのがマンションのリノベーションです。
今回は、市中心部に近く最寄駅が目の前という好立地にありながら、静かで落ち着いた界隈の御池通りに面したマンションのリノベーション例をご紹介します。
既存の建物を快適な住空間に再生して価値を高め、新築よりも費用が抑えられるリノベーションは、解体せずに工事を行うため、廃材が減ることなどから、環境保護につながる点も注目されています。現在お住まいの愛着ある家に住み続けるために、また、今あるものを生かして、さらに嗜好性の高い家を求める声にも応えることができます。
建都は、注文住宅、分譲住宅、リフォームで培ってきたノウハウをもとに、京都というまちの環境に沿ったリノベーションを行っています。

マンションでも可能な個性のあるリノベーション


マンションは築32年、収納が少ない2LDKでしたが、JR、市営地下鉄の二条駅が目の前の最高の立地です。また、3部屋とも南向きで、南と西の眺望がすばらしいことも魅力です。この良さを最大限生かし、収納を増やすこと、使いやすい間取りにすることをポイントにして「便利、快適」に加え「その家らしさ」個性を感じられる家をリノベーションに臨みました。

画一的に感じられるものが多い玄関は、思い切って広くしましました。玄関から廊下はL型になっているので、プライバシー空間は見えません。玄関の壁には、伝統工法の土壁をルーツとする建材、エコカラットを使っています。ちょうど良い湿度を保ち、換気だけでは消えない臭いを吸着し、空気中の有害物質も低減するという優れものです。自然の質感を感じるデザイン性も高いものになっています。木の小さなカウンターを取り付け、より洗練された雰囲気となり、玄関先でのやり取りも十分可能です。

大きなポイントである収納とLDKは、建都らしい工夫を各所に施しました。
まず玄関横の土間付き収納は、シューズクロークとしてはもちろん、自転車やアウトドア用品など大きなもの、また雨にぬれたものを一時避難的に置くのにも、とても便利です。
6帖の洋室、和室、玄関からL字にとった廊下、洗面所、キッチンと、その場所にあった収納を考えました。工夫次第で画期的な使い方ができ、いつもすっきり心地よく暮らせます。

家族の顔が見える楽しいキッチンに生まれ変わる


広く開放的なLDKは,南側と西側に広がる眺望の良さも生かした設計になっています。時間により、季節により変化を感じられるのもここに住む幸運と言えるしょう。以前のキッチンは、奥の壁際に設備が設置されていたため、家族に背を向けるかたちでした。今回、配置を変えただけで、家族の顔を見て会話を交わせる、楽しいキッチンに生まれ変わりました。配置など小さな変更でも、ご家族と過ごす時間を多くし、笑顔がたくさん生まれることにつながると考えています。これからも一つ一つのプランを丁寧にあたため、住む方の幸せにつながるリノベーションを進めてまいります。

京町家の断熱 ケアリフォーム

寒の内。京の底冷えが身にしむ毎日です。
3回続けて、商家の町家をご紹介しましたが、この時期の町家での暮らしは、なかなか厳しいものがあります。
兼好法師が「家の作りやうは、夏をむねとすべし」と、徒然草に書き残しているように、京町家は夏の暑さをどうしのぐかに、重きを置いています。確かに京都の夏は、かなりの蒸し暑さです。が、冬の寒さも耐え難いことも事実です。兼好法師は「冬はいかなる所にも住まる」と言っていますが、そんなわけにはまいりません。
家も住む人も年を重ね、家族構成も変わります。京町家は残していきたい、すばらしい財産ですが、そこで毎日生活していくには、昔のままでは難しいというのが現実です。その時、どうすればいいのか。
思いの丈をさらけ出し、時間をかけて信頼関係を築いて、お客様と建都が一緒に取り組んだ、毎日笑顔になれる、幸せに暮らせる、リフォーム&リノベーションの例をご紹介いたします。

テーマは「リフォームしたことに気が付かないリフォーム」

ケアリフォームがご縁となってお付合いのあるお客様から、入院中のお母様が退院してからの生活を考えたご相談をいただきました。「冬のすき間風が寒いので、木製のガラス戸をアルミ製にしたい」「夏は虫が入って来るので網戸を付けたいというご要望でした。
早速お宅に伺って、現場調査をさせていただきました。アルミサッシを取り付けたい所の床の高さが違うことや、寝室になるお部屋からトイレやお風呂へは、お部屋の外にある廊下を、庭伝いに行かなければならないなど、問題点も見えてきました。

ケアリフォーム施工前

京都市内の真ん中に建つ、築100年近いと思われるこの町家は、入院中のお母様が常日頃から、本当にきちんと手を入れ、みごとな状態で維持されていて、京都市の景観まちづくりの会の情報誌に掲載され、テレビでも放映されたほどです。襖の小さなほころびは、ご自身で繕われるなどして、一生懸命守ってこられたこの町家に、アルミサッシが入っていいのか。うーん。
とにかく、お母様ががっかりされないような「この町家になじんだ断熱工事」が必要でした。退院して戻られた時「何も変わったとこないなあ」と安心していただけるようにしなくては。だから今回のリフォームのテーマは「退院されたお母様が「リフォームに気付かない」なのです。

ケアリフォーム施工後

いろいろ考慮した結果、床の高さをまっすぐに調整し、もとの木製建具は残し、内側にインナーサッシを取り付け、将来、車いすでもトイレやお風呂に生けるように、廊下の段差を解消しました。網戸も取り付け完了。
「何か工事しはりました?」という、目立たなさです。どうか気にいっていただけますようにというか、リフォームしたことに気がつかれませんように」と祈るような気持でした。

12年前のリフォームからお客様とのつながり

お母様が無事退院されて後、娘さんから「母は家に戻って3日目にやっと、インナーサッシに気付きました。これで冬も寒さを心配しなくていいねと、みんなで喜んでいます」とメールが届きました。
「テーマの、リフォームしたことに気が付かない、は大成功」とも言っていただけました。よかった、本当によかった、やった!

ケアリフォーム施工前

ケアリフォーム施工後

今回のリフォームは、12年前にさせていただいたトイレ改修と廊下の欄干手すりの取り付けからのご縁です。当時、病気で左手が不自由になられたご主人のためのケアリフォームでしたが、娘さんの介助で、車椅子でトイレに行かれるお母様の様子を見て、12年前のリフォームが役立っているとわかり、とてもうれしく思いました。
また建具や部材など、使えるもの、慣れ親しんだものを残して改修することを、いつも心がけています。

トイレの天井にある換気口はひょうたん形。そのまま生かしました。

この町家のケアリフォームを通して、あらためて京町家に息づく先人の住まい方の知恵、暮らしの文化に感じ入りましたし、お客様の要望や住まいへの思い入れを大切にしてリフォームを完成してくださった、それぞれの専門の職人さんたちにも、感謝の気持ちでいっぱいです。
ケアリフォームという仕事を通して、本当にたくさんのことを教えていただき、考えることができました。建都が手がけてきた「住む人の視点」に立った、リノベーションやケアリフォームを、随時ご紹介してまいりますので、今後ともどうぞよろしくおつき合いください。

しきたりを受け継ぐ 京都の商家のお正月

建都の町家探訪の3回目。築150年の京町家で、京扇子の製造販売を営む大西さんのお家の、伝統的なお正月迎えについて教えていただきました。
新年のお祝いにだけ使われるお膳やお椀、掛け軸も決まりのもの。家族の好みも取り入れながらおせちを作り、お鏡をお供えし、注連縄を飾って、大西家のお正月準備は調い、つつがなく新年を迎えます。

銘々のお膳でお雑煮を祝う

お正月のお祝いにだけ使うお膳とお椀

三代目当主久雄さんの奥様、優子さんが、一年間仕舞われていたお膳とお椀を取り出して、あらためます。男性は低いお膳に朱塗りのお椀、女性は外側が黒で内が朱のお椀に足付きのお膳です。しばらくお膳は使っていなかったそうですが、数年前からまた使い始めた時「やっぱり、お雑煮はこれで祝わんと」と思ったそうです。
家族みんな揃ってお膳について、家紋の入ったお椀でお雑煮を祝う元旦は、どんなに清々しいことでしょう。今年は、お孫さんの慶君も小さなお膳を前に、席に連なります。2歳の子の目にはどのように映るのでしょうか。

床の間を背にした一番端は、孫の慶君のお膳
お正月の掛け軸は「初日と波涛」がきまり

お正月の準備にてんてこ舞いのさなか、お椀で遊んだり、床の間にあがったりして、優子さんに叱られていましたが「うちのお正月」は、そうやって自然と心と体のなかにしみこんでいくのだろうと感じました。
ものごころがつく前から扇子も京町家の暮らしも日常という環境で育つ慶君に、大きくなったら、ぜひ話を聞いてみたいものだと思います。

大西家のお雑煮とおせち

白みそのお雑煮が映える朱のお椀

京都のお雑煮は白みそが決まり。大西さんのお家でも、もちろん、昆布でだしを引いた白みそ仕立てです。人の頭になるようにと、大きな頭いもを切らずに一人に一つ。こいもも添えて、お雑煮大根は輪切りにします。お餅は丸い小餅ですから、角のないものばかりで、新しい一年も、人と争うことなく丸くおさめて暮らせますように、という意味が込められています。お椀に入れたら最後に花かつおをふんわりとかけます。
「みんな白いもんばかりでしょう。彩りがないと言って、赤い金時にんじんや緑の菜っぱを入れたりなんかしたら、あかんのよ。お雑煮は神様にお供えして、一緒にいただくものやから清浄な白い色。お椀は女用も、外側は黒でも内は朱やから紅白。白がよう映えてきれいでしょ」と、優子さんは教えてくれました。
また「私が嫁いで来た時、白みそはとても体が温まるから、冬の寒い寒い台所で働く、女の人の体を思って使うのやと、聞いたの」と続けました。はんなりという言葉と同様に「京都のいけず」も有名になってしまっていますが、京都の人の本当の心根は、人を思いやるやさしいものなのです。

大西家のおせちは、ごまめ、数の子、たたきごぼう、黒豆、お煮しめ、かまぼこなどのお決まりのもののほかに、家族の好みのものも加えています。優子さんの得意なおせちは、ごまめだそうです。お祝いのものなので、頭を落とさないように、気をつけて作らないとなりません。甘辛い味がからみながらも、ごまめ自体はかりっとしていて絶品。大らかに盛り合わせた御馳走は、毎年多くのお客様を楽しませています。

また今は、祝うお家も少なくなった「にらみ鯛」も、大西さんは毎年、魚屋さんに頼んで用意しています。以前「おにらみやす」と言って、三が日は箸をつけてはいけなかったと、聞いた時は、へぇー、おもしろいなと思いましたが、大西家ではあまりにらまないで元旦から、おいしくいただいているそうです。
習わしも、こんなふうに変化していくのは、良いことのように思います。

京町家の文化を楽しく発信


風格のあるどっしりした構えの玄関にりっぱな注連縄が釣り合っています。京都では、このように、ちょうど良く釣り合いがとれていることを「つろくする」と言って、大切なこととしています。京町家が今もその魅力を放ち「本当に京都らしい京都」の代表であるのも、そこに暮らしている人の息づかいを感じられるからであると思います。
そしてそこに暮らす人達はまた、当然のことながら現代の社会に生きる人達です。便利さも必要、以前と同じようには、諸般の事情からできないこともあるでしょう。それでも折り合いをつけながら、できることは続けていこうとして努力をされていることも確かです。

大西さんも「うちなんか、そんな大したことはできてないし。おせちの材料もスーパーで買う物もあるし」と話されましたが、そうしながら「大西の家のお正月」を伝えています。そこに「京町家の品格につろくする」暮らし方を見るようです。
京都の良さや伝統とは。新しい年も、建都は京都のまちと住まいについてみなさんと一緒に考え、発信してまいります。このサイトのなかでも、みなさんに楽しいさんぽ道を見つけていただけますように。

隅々まで 職人の技と心が生きる京町家

十二月十三日は事始め。一年の区切りの日とされ、日頃、お世話になっているお家へ、鏡餅を持参して挨拶する習わしがありました。
花街以外はこの風習も廃れましたが、商家では、この日からお正月の準備を始めます。前回ご紹介した、建都の町家再生プロジェクトの燈籠町の家のご近所、扇子の製造販売を営む大西さんのお宅も、年内納めの仕事や、お正月の準備であわただしさを増しています。

広い邸内の大掃除は、この家を大切にした初代や、家造りに関わった多くの職人さんに思いを馳せる時にもなっているそうです。用事があって伺った日、忙しいなか、先日に続きお家を案内してくださいました。初代主の心意気、自然の素材とそれを生かす職人さんの技をつぶさに感じた、町家探訪その二です。

自然の素材を知りつくし、余すところなく生かす

大西常商店の扇子
様々な意匠と伝統の色彩の扇子が並ぶ店の間の奥は「供待ち」となっています。しばらく前の時代まで、大店の旦那さんは、取引先へは必ず、運転手さんや丁稚さんなどのお供を伴って行ったそうです。旦那さんが商談をしている間、お供が待っていたのが「供待ち」です。
商談が長引けば待ち時間も長くなります。「立って待つのは辛かろう、雨の中待つのは辛かろう」と、初代の常次郎さんの心遣いから生まれたものです。お茶時の際の寄付きのような趣のある造りです。働く人を大切にした常次郎さんの人柄がしのばれます。現存する京町家でも、供待ちのある家は少ないとのこと。この供待ちは、大西常商店を象徴する重要な空間なのだと感じました。
坪庭
供待ちに続く「坪庭」も、数寄を凝らした造りで、常次郎さんの洗練された文化性を感じます。壁のように張られた竹垣は「木賊張り」という工法で、釘を一本も使わずにすき間なく竹を張り合わせてあります。竹の節をうまく生かして、まっすぐに伸びる木賊のように組み合わせるのは、素材の持ち味やくせを飲み込み、それを生かす技と美意識をあわせ持った、当時の職人さんの力量に驚きます。

建材も技も、地域の中で循環させ、京町家と、まちなかの景観を守る


離れの二階は、響きが良いことから、長唄のお稽古にも使われています。お稽古の環境としては最高でしょう。階段の手すりや、長押(なげし)、床柱などは、材木の自然な枝ぶりや木肌を巧みに生かしています。押入れのふすまには、古い更紗が張られ、こんなところにも、お茶や能を嗜んだ常次郎さんの趣味の良さが伺えます。
また、お茶事の際に待合として使われている一階の部屋も、ふすまの引手や床の間の違い棚の建具など、至るところに専門の職人の手仕事の力がみなぎっています。
襖の引き手
京町家はメディアに注目され、多くの人が憧れを抱く、京都らしさの代表的なものですが、維持し、住み続けることは大変な負担であり、伝統の技術の継承も年々困難になっています。
建都では早くからプロジェクトをたちあげ、住み続けられる家屋として、京町家を改修し、維持する取り組みを続けています。
「住まいの文化」を継承する「地産地消の京町家再生」をめざし、町家の持ち主の方々や、地域コミュニティーのための、一助になっていきたいと考えています。
住み続けたい京都。大好きな京都。あこがれの京都。大西さん一家は、初代から順番に受け継いきた町家で、四季の彩りを実感しながら、変化を受け入れながらしなやかに、芯はぶれずに、ていねいに暮らしています。

建都が2006年に手がけた富小路松原の京町家再生

おくどさんが物語る 京都の暮らし 

京都の歴史や、美しい町並みを大切にした京町家再生に取り組む、建都の町家探訪。
世界中から、多くの人が訪れる京都。北、東、西になだらかな三山を眺め、まちなかを鴨川が流れる豊かな自然。そして、都の暮らしを支えてきた、様々な生業、低層の家が並ぶ町並みなど、その魅力は人々の心をとらえて離しません。
京都の町並みを形成する重要な要素である京町家は、1200年の時を重ねて育まれてきた、京都の文化と伝統の技が凝縮されています。
相続や大がかりな補修の課題、経済資源として町家を買い取る動きもからみ、町家を維持することは並大抵ではありません。そんな厳しい現状のなか、大規模な改修を施し、先祖から受け継いだ町家と、暮らしの営みを未来へつなげようと、奮闘を続けるお家を訪ね、お話を伺いました。

職住一体の伝統的京町家

大西常商店
大西常商店の前の松原通りは昔の五条通り。かつては祇園祭の巡行もここを通っていました。

伺ったのは、築150年の京町家で、約100年にわたって京扇子の製造・販売を続ける、大西常商店です。建都の「京町家再生プロジェクト」が手がけた燈籠町の家のすぐ近く、「田の字型」と言われる京都の中心部にあります。

建都が手がけた燈籠町京町家再生プロジェクト

大西常商店の家屋は、母屋と離れ、坪庭と中庭、茶室、土蔵、作業場がある、職住一体となった、伝統的な町家造りとなっています。この店や作業場の奥で、家族が暮らしを営む「職住一体」という造りは重要な意味を持つと考えます。子どもたちは、おとなが働く姿を見て育ち、そのなかで、それぞれの家の仕来りや、流儀を身に付け、先人が築いてきた多くのことを継承できたのだと思います。

店から坪庭、土間、さらに奥へ続く空間は茶席の趣きがある。


京町家を今も命ある存在として守り、暮らしの文化を伝える大西優子さんは、おくどさんを「家の心臓」と語ります。京言葉でかまどのことを意味するおくどさん、家族や職人さん、大家族の毎日の食事をまかなってきた台所の要です。
おくどさんは「うなぎの寝床」の言葉とおりの、奥へと細長く続く、走り庭と呼ばれる土間に据えられています。少し前まではよく、台所や流しのことを「走り」というお年寄りがおられました。上は「火袋」といわれる吹き抜けになっていて、煙や火の粉は高く舞い上がって消えて、火事にならないように工夫されています。
京町家は、細長い土地の形を生かして、光や風が通るようにとてもよく考えられています。
住まいの文化、暮らしの工夫に学ぶことがたくさんありそうです。これからの建築やリノベーションにも十分生かしていきたいものです。

お話を伺った日は小春日和の暖かさでしたが、「暖房器具のない時代、冬にここで三度の食事の支度をするのは、辛抱がいったやろな」優子さんは、しみじみと言葉をつなぎました。

火を大事にして、火事にならんよう気ぃつけて、ご飯ごしらえします

何十年も、走りで働く人たちを見守ってくれる布袋さん

おくどさんの上には、入口の方向を向いた七体の布袋さんと「火廼要慎」(ひのようじん)と書かれた愛宕神社のお札が張られています。火伏(ひぶせ)の神様である愛宕神社は、京都では「愛宕さん」と親しみ込めて呼ばれています。「火、すなわち慎みを要する」という、火に対する畏敬の念を忘れずに暮らすことの大切さを教えてくれているのです。
おくどさんにかけた大小三つのお釜を、効率よく使っていきます。真ん中はご飯を炊き、右側では煮物や野菜を茹でたり。一番左の大きなお釜はお湯を沸かして、煮炊きの時や、後片付けに使うなど、火を遊ばさんように、三つの焚口とお釜を、上手に使いまわします。ひと昔前まで、台所の上がりがまちで、家内を束ねる奥さんが、うまく仕事がまわるように差配していました。

この家は、ご先祖さんからお預かりしてる家。私らも守って伝えていく


京町家に親しみ、五節句(人日=桃の節句、端午の節句、七夕、重陽)や、おくどさんでご飯を炊くなど、暮らしの文化に楽しくふれてほしいと「常の会」を立ち上げ、能、長唄、津軽三味線などのミニライブや、ワークショップなど、様々な企画で町家の魅力を広げています。初代の常次郎さんは、茶道や謡曲を嗜む趣味人で、商いだけではなく、文化サロン的な場にもなっていたそうです。優子さんは、その集まりの雰囲気を現代によみがえらせ、たくさんの人とつながる文化の発信の場にしたいと、熱い思いで会の運営にあたっています。

おくどさんで炊いたご飯は、参加者から「おいしい!」という声が次々聞かれる、本当のご馳走です。薪を焚く匂いや炎の色、シュルシュルというお釜が吹いてきた音。炊きたてのご飯の匂いと甘さを含んだ味。たくさんの人の手をかけた食物を頂くありがたさ、おかげさまという気持が生まれてきます。
「初代の努力を忘れない、常日頃を大事にする」そんな心が込められた常の会は、その名のとおり、日々、地道に歩みを続けています。

 

大西常商店
京都府京都市下京区本燈籠町23